ルブリス王子殿下は、苦笑いをして自分の手を抑えた。
私に救いを求めるように、無意識に手を伸ばしてしまっているように見えて苦しくなる。

「ルブリス王子殿下、今は失った信用を取り戻すことに集中してください。今、ルブリス王子殿下は国政を疎かにするほど恋に盲目になりやすいと不安視されていると思います。私との婚約を破棄しない限り、卒業パーティーでの一件も蒸し返されるリスクがあります。私が考えるライ国の問題点は、一夫多妻制にも関わらず王位の長子相続をしていることと、ライト公爵領の地下資源に依存しているところです。地下資源は無限ではありませんし、その地下資源に依存した国政運営がライト公爵家の権力を高め過ぎています。私とルブリス王子殿下が結婚してしまうと、その傾向はより強まるでしょう。まずはライト公爵家へ権力が傾き過ぎている現状の問題点を指摘してください。正常な国政運営を行う上で改善すべきだとした上で、私との婚約を破棄してはどうでしょうか?」

「私はイザベラとの婚約を破棄したくはない。私にチャンスを与えてくれないか?君の心を得られるよう努力する。正直、もう今は王位だとか、評判とかどうでも良い。イザベラに側にいて欲しいんだ。それにしても君は本当に優秀なんだな、この国の問題点なんて私は考えたこともなかった」
無力な私に縋るように見てくる彼に胸が詰まる。


「ルブリス王子殿下、私は優秀でも何でもありません。ない知恵を何とか絞って、ルブリス王子殿下が正当な評価を受けられるように考えています。5年間もの間、精神をコントロールされてたことは、これから一切口にしないでください。ライト公爵家に権力が傾き過ぎていることは、皆、口には出さなくても不満に思っているはずです。ライト公爵に最も距離が近いルブリス王子殿下自らその問題に切り込むのです。ルブリス王子殿下が人が変わったように、国政に集中し出したら、皆アカデミー時代のフローラ・レフト男爵令嬢との件に違和感を感じるようになります。レフト男爵令嬢は父が娘への名誉毀損で訴え、国外追放まで追い込んでくれるそうです。近いうちにライ国から彼女はいなくなるでしょう。急に国政に真面目に取り組み、政策を次々と打ち出すルブリス殿下がなぜアカデミー時代あれ程、彼女に盲目になりやるべきことを疎かにしていたか考え出すと思います。レフト男爵令嬢は魔女でライ国を意のままにしようと、ルブリス王子殿下を操っていたと考える人も出てくるかもしれません。精神コントロールされていた時にやってしまった失態は、全てレフト男爵令嬢に被ってもらいましょう」

「イザベラ、君は驚くような提案をしてくるのだな。イザベラはとても不思議な人だ。優しい君がフローラに対しては、無慈悲なのだな。それが、私とフローラが恋仲だったことによる嫉妬からではないことが寂しいよ」

ルブリス王子殿下は声を抑えながら笑い出した。
少しでも彼が元気になってくれたのならありがたい。
今、彼は自分の将来が真っ暗に見えているのだろう。

ルブリス王子殿下は、今のフローラが私を前世で虐め抜いた白川愛だとは知らない。
どのようなことをされても許せる神様のような心を、私は持っていない。
白川愛は自分の娯楽のように私を虐め、心を弄び、追い込んだ人間だ。

「それから、ルブリス王子殿下、エドワード王子と対等に王位を争ってください。長子相続のルールを撤廃するよう、長子であるルブリス王子殿下自らが提案するのです。ルイ国では6人の兄弟が王位を争ったそうです。能力を競ってしっかりと勝敗が決しているからか、サイラス様を周りの兄弟はいつも支えようとしています」

「ルイ国の兄弟が支え合えるのは、同じ母親から生まれているからではないのか?私は王妃の子で、エドワードは側室の子だ。今日、彼は生まれた時から私の敵だったと白状してきたよ」

「そのように考えないでください。私は弟のカールとは何の血の繋がりもありません。血の繋がりがなくても、姉弟で助け合いたいと彼は言ってくれました」

私が言った言葉にルブリス王子は苦しそうな表情になった。
エドワード王子に敵視されていたことが、彼には相当こたえてそうだ。

「ルブリス王子殿下は対等にエドワード王子と王位を争ったら負けるかもしれません。エドワード王子殿下は人望も厚く、幼い時から国政に深い興味を示し政策を多く提案しています。貴族からの尊敬も得られています。今から、ルブリス王子殿下が挽回するのは難しいかもしれません。それでも、何もかもどうでも良いと投げ出して、自分の人生を諦めないでください。今は、殿下がたくさん傷ついているからそのような感情になってしまっているだけです。王位につけなくても、全てを失うわけではありません。エドワード王子殿下の仕事ぶりを見れば、彼を支えることに喜びを見出せるかもしれません」

「情けないな、イザベラに言われるまでエドワードの周囲の評判や国政に対する取り組みを気にしたことはなかった。そのような私を将来に渡り支えなければならないのだから、不満を持たれて当然だな」
彼は寂しそうに私を見つめながら言ってきた。