「イザベラ、そこに座りなさい。お前はわかっていないかもしれないが、サイラス王太子殿下は恐ろしい人だ。近くで美しくなっていくお前を見て自分のものにしたくなったのだろう。きっとお前を手に入れたら、ライ国を侵略してくるだろう。彼は欲しいものは全て手に入れるような男だ。他国の王子の婚約者にまで手を出そうとしてくるんだ。ルブリス王子殿下は今までお前に対して、よくない態度をとったかもしれない。しかし、今日だってわざわざ謝罪に来てくれたではないか。王族が一貴族令嬢でしかないお前に頭を下げに来たのだぞ。きっと、これからはお前を大切にしてくれる。ルブリス王子殿下と一緒になりなさい。これは命令だ」

「命令ですか。親と子は君主と臣下ではありません。私は、その命令には従えません」

私の言葉にライト公爵は怒りで顔が真っ赤になる。

その時、扉をノックする音がした、また来客だろうか。
「イザベラ様に会いたいとフローラ・レフト男爵令嬢がお見えです」

「通してください。お父様、私は彼女を名誉毀損で訴えるつもりです。彼女は狂っている部分があります。お父様もご一緒にその狂った様をみてください。そして、私がどのような被害に遭っていたかお考えください」

私は白川愛の憑依したフローラを訴えるつもりだ。
彼女は前世で散々犯罪まがいの虐めを私にしてきた。

前世での私は彼女に対して怯えるばかりで、戦うことができなかった。
でも、今は彼女と戦い、彼女に罪を償わせることができる。

「イザベラ様、2人で話したいのですが、ダメでしょうか?イザベラ様のためにもその方が良いと思うのです」
案内されてきたフローラは挨拶もなしに私を見下すように言ってきた。
おそらく、白川愛として綾を脅して言いくるめて思い通りにしようとここに来たのだろう。

「お約束もしていない、ご挨拶もない。フローラ様は不躾な方ですのね。お父様にあなたを名誉毀損で訴えることを、ご相談していたところなのです。ぜひ、このままお話ください。いつものように偉そうに、見下すように自分の犯した罪の全てを白状してください」

私の言葉にフローラの表情が鬼の形相に変わる。

「キモ女、何、調子に乗ってるのよ。さっきの卒業パーティーではわんわん泣いてたくせに、随分強気なのね。ルブリス王子は3年間も私とラブラブだったのよ。金持ちのあんたを失うと思って、あんたを追いかけただけ。勘違いしちゃった?このブスが。あんたなんてどこにいても、死んだ方が良い存在なんだよ」

「フローラ・レフト男爵令嬢。君の発言はライ国のライト公爵令嬢にするものではない。それどころか、ライ国の貴族としても相応しくない。私の娘をこれほどまで侮辱した君を訴える。君を国外に追放するくらいには追い詰めるつもりだよ。娘の前に姿を現してほしくないからね。2度とライ国の地が踏めないと思いなさい」

冷静にゆっくりとライト公爵がフローラを見据えながら語る。
彼にも娘への愛情があったと言うことだろうか、私は心が温かくなる。

「待ってください、ライト公爵殿下。実は私、前世から娘さんとは仲の良い友達なんです。友達同士少し喧嘩をしてしまっただけなんです。ね、綾。私たちが初めて会った日のことを覚えている?一人寂しそうにしてたあなたに友達になろって優しく声を掛けてあげたじゃない」

笑顔を作ったフローラの顔は歪んでいた。

「お父様、彼女は狂っているのです。ありもしないことをいつも言う彼女に私は苦しめられて来ました。フローラ様、たとえ前世があったとしても私とあなたが友達であることはないと思います」

私の言葉にフローラが発狂する。

「はぁ、なんなの?そもそも、お前のせいで死んだんだろうが。詫びて土下座してお前はもう一回死ねよ」
あまりの大声に、騎士たちがノックをして部屋に入ってきた。

「フローラ・レフト男爵令嬢を拘束し、2度と娘に会わせないようにしなさい」

ライト公爵の指示に従い、騎士たちがフローラを拘束する。
その姿を見て、私は前世で彼女に虐められた記憶が頭の中をかけ巡った。

給食を口に押し込められ、暴力を振るわれ、赤信号を往復させられ重傷を負った。
彼女の犯罪まがいの私への行為をやっと償わせることができるのだ。
頬をとめどなく熱い涙が伝うのを感じる。

「イザベラ、苦しかったな。もう、そんなに泣かなくても大丈夫だから」
ライト公爵がそう言って私を抱きしめてきた。