「イザベラ、もう離しません。今すぐライト公爵邸に挨拶に行き、その後2人でルイ国に向かいましょう」
サイラス様の言葉に心が満たされる。
私たちはライト公爵家に向かう為に馬車に乗り込んだ。
今回の卒業パーティーでの出来事が有耶無耶にされてしまう前に確実にルブリス王子殿下との婚約を破棄していおく必要がある。

「私、ライ国に戻ってきたら本当に何もできませんでした。ルイ国でいかに周りに助けられたか実感しました」

「イザベラ、あなたは無力ではありません。卒業パーティーで、周りが全員敵に感じるような中で声をあげたではありませんか」

「ただ、納得いかなかっただけです。前世で私は絶望の中死にました。。今世では私は絶望し切っていなかったんだと思います。納得がいかないと声を上げられるくらい、私の中にルイ国での大切な人々がいたんです。サイラス様がいたんです」

私がそう言うとサイラス様が私に口づけをしてきた。




「ライト公爵、お久しぶりです。先程、ルブリス王子が卒業パーティーにて公にイザベラ様との婚約を破棄することを宣言しました。それにあたり、イザベラ様と正式に婚約をさせて頂きたくこちらに参りました」

サイラス様と私が手を繋いで登場したことにライト公爵は驚いていた。

「サイラス王太子殿下、遠路はるばるライ国まで来て頂きありがとうございます。王太子殿下は半年後には正式にルイ国の国王陛下になられる身です。ルイ国では21歳から婚姻を結ぶことになります。イザベラと婚約したら、5年もの間ルイ国の王妃が不在になります。貴族たちは納得するでしょうか?それに、10歳の時、イザベラを誘拐まがいの方法でルイ国に連れて行った件もあります。周囲に王太子殿下が幼い少女が好きなどと悪評をたてられないか懸念しているのです。ルブリス王子が、アカデミー在学時にフローラ・レフト男爵令嬢の噂があったことは存じ上げております。ルイ国と違いライ国は一夫多妻制です。ルブリス王子はまだ若いので一時の感情でイザベラと婚約破棄などと言ったことを口走ってしまったかもしれません。しかし、ライト公爵家の娘であるイザベラを差し置いて、フローラ・レフト男爵令嬢を正室に据えることはあり得ません。頭が冷えれば、寵愛するフローラ・レフト男爵令嬢は側室にすえ、イザベラを正室として迎える選択をすると思います」

ライト公爵はあくまでルブリス王子を王位に据えたいのだ。
ルブリス王子は彼にとって扱いやすいのだろう。

ライ国のことを思うならば聡明なエドワード王子を支援するはずだ。
ライト公爵は扱いずらそうで考えの読めないサイラス様に、私という駒を渡すのが怖いのだろう。

「お父様、私を勘当してください。今はライト公爵家にはカールがいるではありませんか。私は婚約者としてではなくメイドとしてでも、サイラス王太子殿下についていきたいと思っています。私と婚約したらサイラス王太子殿下が幼い少女が好きなどという悪評がたつなどと、適当なことを言わないでください。ライト公爵家の娘としてルイ国の次期国王と婚約したら、周囲はライト公爵家が隣国のルイ国と関係を密にしようとしていると捉えるだけです。王族や高位貴族の結婚は政略結婚が基本です。私とサイラス王太子殿下の立場を考えれば、5年前の愛の逃避行の末結ばれたように考えるような人間は、童話好きの幼い少女ぐらいだと思いますよ」

「イザベラ、お前はカールとは違い私の実の娘だ。お前の幸せを考えて言っているのだ。サイラス王太子殿下は非常に魅力的な方だ。お前が勘当されてでも、ついていきたいと思ってしまうのも分かる。ライ国を離れたら、お前は利用されるだろう。私は近くにいて娘のお前を守ってやりたいのだ」

ライト公爵の実の娘という言葉に思わず悲しくなる。

彼の本当の実の娘イザベラはもうどこにもいない。
別人が憑依しているのに、彼は全く気が付かない。

お茶会ばかりしていた子が勉強ばかりして余計な知恵をつけてきて、面倒だとしか思っていないのだろう。

イザベラは美人でスタイルも良くお金持ちなのに、親には駒としか見られていない。
私は自分の体の主の不幸を思うと苦しくなった。

「私を一番利用したいのはお父様ではないですか?私はサイラス王太子殿下になら、利用されてもよいと思っています。私が利用されることでお父様に迷惑がかかるのであれば、是非勘当してくださいと言っているのです」

「ライト公爵、私はイザベラと一緒なることを最優先に考えております。ライト公爵家はルイ国の王妃の実家になります。決して、ライト公爵にとって悪いようにはしないことを誓います」

サイラス様はライト公爵が自分の立場だけを考える人間だと気がつき、ライト公爵が納得するような言葉をかけていた。
彼の言葉にライト公爵の表情が変わったのが分かる。

その時、扉をノックする音がしてお付きの方と共にルブリス王子殿下が現れた。

「公爵殿下、ルブリス王子殿下がお見えです」
そこに立っていたのは私の知っているルブリス王子殿下ではなかった。
黒髪に翡翠色の瞳は同じだが、冷たい感じは一切ない。

私は彼に物語の強制力がかかっていたことを悟った。
イザベラに冷たく、フローラを愛しく思うような強制力。
きっと随分前からかかっていただろう、謎の力の1番の被害者だ。