ライト公爵家で、真っ先に出迎えてくれたのは養子で弟のカールだった。

「初めまして、カール、ライトと申します。姉上とお呼びしても宜しいでしょうか」

赤い髪に赤い瞳をした彼は、とても優しそうに見えた。

「私たちは姉弟ね。私もあなたのことはカールと呼ばせて欲しいわ。カールも姉上と呼んでくれるとと嬉しい。明日はカールのアカデミーの入学式ね。何か困ったことがあれば、助けになるから何でも相談してね」

私は姉だから弟の彼を守りたいと思った。
前世で、弟が虐められたのは、姉である私が虐められていたのが原因の一つだ。
私は前世で守れなくても、今世では弟を守り抜かねばと胸に手を当てた。

「姉上、体調が悪いのではないですか? お顔が真っ青です。ルイ国とライ国では気候も違いますし、長旅でお疲れなのではないですか?」

心配そうなカールの顔が、回転するように見えたと思ったら私は気を失った。

気が付くとベットに寝かされいて、重い体を引きずって朝食を食べにいく。

「イザベラ、起きるのが遅いぞ。この1年で、なんとしてもルブリス王子のお気持ちを取り戻すんだ。私はルブリス王子殿下に纏わりつくフローラ・レフト男爵令嬢というのがどうも気に食わん。レフト男爵も、まるで自分の娘が次期王妃であるかのように振る舞っている」

ライト公爵が矢継ぎ早に言ってくが、声を出そうとしたら咳き込んでしまった。
目の前に朝食があるのに、とても食べられる気がしない。

「朝の挨拶もできないのか、ルイ国はろくな教育をしていないんだな。カールはもうアカデミーに行ったぞ。朝食なんて食べてないで、もうお前もアカデミーに向かいなさい」

ライト公爵の言葉に朝食を食べないで済むとホッとする。

「ルイ国の教育は素晴らしいものでした。私のアカデミーでの役割はルブリス王子殿下のご機嫌取りですか?アカデミーは学びにいくところです。私は、これで失礼します」
なんとか大好きなルイ国を侮辱する言葉を否定すると、私は馬車に向かった。

馬車の前で吐き気がしてしまい、うずくまる。
アカデミーに白川愛がいると思うだけで、今までできていたことが何もかもできなくなりそうで怖い。
ルイ国で強くなれた気がしたけれど、勘違いだったのだろうか。

「イザベラ様、今日はお休み致してはいかがですか?お疲れが溜まっているようです」
従者に声をかけられ首を振り、馬車に乗り込んだ。
私は声を出すと嘔吐してしまいそうなので、声を出すことさえ怖くて仕方がなかった。

♢♢♢


アカデミーに到着して、待ってましたとばかりに私を迎えて来たのはフローラだった。
「綾、久しぶりね。また、会えるのを楽しみにしてたわ。今、私とルブリス王子殿下はラブラブなの。いつだって私が主役でごめんなさいね。でも、キモいあんたには悪役令嬢がお似合いよ」

私が最終学年でライ国にあるアカデミーにくるなり接触してきた、白川愛が憑依したフローラの言葉に震えがとまらなくなる。
何か言い返そうと思っても、吐き気が襲ってきて邪魔をする。
周りの人間が遠巻きで私を見ていて、悪口を言っているのかと思うと怖くて仕方がない。

「ルブリス王子があんたのこと物言わぬ人形だと言ってたわ。その通りね、人形というか汚物だけど」
そう言い残して去っていった、フローラの後ろ姿を見つめることしかできない。

結局、私は何も変わっていないのかもしれない。
ルイ王国では、サイラス様をはじめララア、ライアン王子、レイラ王女にも守られてきた。

でも1人では結局、絶望のまま死んだ綾のように無力なのかもしれない。
私は聞こえてくる周りの声が全て自分を悪く言っている声のように感じて耳を塞いだ。