「サイラス様、お父様の件はどうなりましたか?」
私は王宮に戻ってサイラス様を見てお父様について尋ねようとした途端、視界が歪んんだ。

♢♢♢

目を開けると、私の部屋の天井と私の顔を覗き込むサイラス様が見えた。
私は部屋のベットに寝かしつけられているようだ。

「あの、私、気絶したのでしょうか? サイラス様が私をここまで運んでくれましたか?」

「はい。イザベラのことは私が部屋まで運ばせていただきました。気絶したことについて、気に止むことはありません。ドレスの時に、コルセットをつけるのをやめてみてはどうでしょうか? 私は貴族令嬢がよく気絶するのは、コルセットが原因なのではないかと考えています。狩猟大会の開会式で立派な挨拶をしたと聞きました。狩猟大会の開催の意義を問う言葉は皆の心に響いたそうです。来年度からは無闇な殺生をしない形で、弓の技術を競う大会に変更してはという意見もあがっています。狩猟大会を開こうというタイミングで動物の命について語るあなたの姿が女神のように美しかったと聞き、その場に入れなかったことが残念でなりません」

私は起きあがろうとして布団を捲るとドレスを着ていたはずが、寝巻き姿になっていて驚いた。

「私、寝巻きに着替えてますね。まさか、サイラス様の手を煩わせましたか?私が気絶したのはコルセットが原因ではありません。私は心に負担を感じると、めまいがしたり朝起きれなくなったりする心の弱い人間なのです。狩猟大会の開会式では自分はあと2年ルイ国にいたいということを伝えたかったのですが、私はここにいられるのでしょうか?それともお父様とライ国に帰らなければなりませんか?」

私が自分の体を起こしながら尋ねると、サイラス様は私の体を支え私の背に枕を2つ当ててくれた。

「着替えを私がしても良かったのですか? イザベラが嫌がると思いメイドに頼みました。イザベラ、今日は色々ありました。ライト公爵の来訪、開会の言葉のピンチヒッター、イレギュラーなことに対応すると疲れるのは当たり前です。心に負担がかかって体に不調をきたすのは、心が弱いからではありません。イザベラの体が頑張りすぎたあなたの心を休ませようとしているのですよ。イザベラはもちろんあと2年ルイ国にいます。アカデミーの最終学年はライ国のアカデミーに制度上通うことになります。イザベラが最終的に帰る先をルイ国にするのが私の目標です」

「私も、ルイ国でサイラス様のお側に戻って来たいです。お父様はライ国に帰ったのでしょうか?」

「はい、今回はひとまずお帰りいただきました。イザベラの言っていた通り、ピンク髪のヒロインのルブリス王子への接近で焦ったのでしょう。フローラ・レフト男爵令嬢、私としては愚かな彼女とルブリス王子が接近して、ルブリス王子がイザベラの価値に気が付かないまま婚約を破棄してくれるのが一番良かったりします。ライト公爵の「イザベラをルブリス王子に嫁がせたい」という気持ちは揺るがすのは難しそうです。エドワード王子がライト公爵家が王家と同等とも言えるような力を持っていることを危惧していることに彼は気がついています。そのためエドワード王子が王位についてしまうと、ライト公爵家の王家への発言力も弱まるのではないかと心配しているように見えました。だから彼はどうしてもルブリス王子をライト公爵家の後ろ盾と長子相続のルールを使って、王位につかせたいのでしょう。ライト公爵家は公爵位を継ぐ後継として親戚から10歳のカール様を養子に迎えたそうです。彼を後継として育てることで、イザベラは公爵家を継がずルブリス王子に嫁がせる予定だという強い意向を周囲に見せたのだと思います」

「私に弟ができたのですか?前世でも2歳年下の弟がいたのです?私の弟もひどい虐めにあって家から出られない状態にまで追い込まれました。カール様はどのような子なのでしょうか?私は今度は弟を守れる強い自分になりたいです」

「イザベラ、前世でもあなたは弟君を守っていたと思いますよ。あなたの存在にたくさん弟君は助けられたでしょう。イザベラと一緒に暮らして、私がいつもあなたの存在に助けられているからわかるのです。イザベラはとても心の強い人です。ちなみにカール様はライト公爵が親戚から選びぬき、後継に据えようとしている方です。おそらく、彼はかなり優秀な切れ者で、将来に渡りライト公爵家の地位を不動なまのにできることを見込まれている方だと思います」

「10歳でそのようなすごい子がいるのですか?」

「10歳の時に私の心を捉えて、今も離さないすごい女性がここにいますよ。彼女はいつも周りに多くの影響を与えます。誰より心が美しくて、思いやりがある人です。ハンカチを200枚作り、それぞれに丁寧な刺繍を施すという職人のような技術も持っています。当たり前のように毎年開催されていた狩猟大会で、その大会の運営方針について疑義を唱える勇気も持っています。現在12歳のイザベラ・ライト様よりすごい子を私は知りませんよ」

愛おしそうに私の髪を撫でながら優しく語ってくるサイラス様の声に心が癒されていくのがわかった。