私とエリス様が3年生の教室に戻ると、議論は白熱していてライアン王子殿下も教室に戻っていた。
確かにライアン王子の言っていた通り、中学生相当には見えない大人っぽい人が多い。

私は中学は1年生の後半から学校に行けていないから分からないが、前世の中学3年生もこんなに大人っぽかったのだろうか。
前世で犯罪まがいの虐めを私にしたクラスメートは、私が死んでも何とも思わず今も笑いなが過ごしているのかもしれない。

「イザベラ様、今日の見学のご感想を頂いても宜しいですか?」

考えを巡らしていたら、ライアン王子から突然声をかけられた。

「皆様、本日は有用な機会を頂きありがとうございます。皆様の闊達な議論に素晴らしいルイ国の未来を見た気がします。私も皆様に負けないよう日々勉強していきたいと思います」

私は慌てて3年生の方々に挨拶をし頭を下げた。


「では、イザベラ・ライト公爵令嬢を見送りますので、皆様、お昼休憩に入られてください」

ライアン王子殿下はそういうと私をエスコートしようと手を差し伸べてきた。
私は彼にエスコートされ、教室を出る。

「イザベラ様、驚きました。集団が苦手なようなことを言っていましたが、立派に挨拶していたではないですか? 考え事をしているように見えたのですが、しっかり話を聞いていたのですね」

「申し訳ございません。後半の議論については前世の闇に取り込まれて、せっかく見学の機会をいただいたのに話を聞けていませんでした」

「イザベラ様。正直に白状しないでください。言わない方が良いこともありますよ。それにしても、おじさんのような見た目の3年生がいる教室の方が、イザベラ様の心の安寧には良いのではないですか?」

「いえ、1年生の授業を受けさせてください。皆様、もう立派な社会人のような議論をなさるのですね。今の私では中に加われる気がしません」
あのような議論闊達な場にいる自分を全く想像できない。

「社会人とは爵位を持った貴族のことですね。私がイザベラ様が異世界からきたと知っているから、油断していますか?皆の知らない言葉を使ってしまって疑問に持たれた時は、ライ国ではそのうような言葉を使うと言い訳してくださいね。決して前世の話をしては行けませんよ。イザベラ様は正直過ぎて、危なっかしい面があります。それと、エリス・ギータ侯爵令嬢の弱みは見つけられましたか? 彼女と随分仲が良くなったように見えました」

「いえ、彼女は完璧な貴族令嬢で、知識も豊富で素晴らしい方だと思いました」
エリス様は本当に賢くて、優しくて、気が利くような素敵な人だった。

「今日のエリス・ギータ侯爵令嬢、私に恋に落ちているような気がするのです。実はずっと視線を感じていて、今日は目が合うと顔を赤らめて目を逸らすことが54回もありました」
ライアン王子殿下の発言に私は心臓が飛び跳ねた。

「そうなんですか? 青春ですね」

私は彼女の気持ちを秘密にすると約束している。
しかし、ライアン王子は私が前にときめいた時さえ気がついた。

彼は人の気持ちの機微に恐ろしく敏感なのだ。
エリス様が自分の気持ちに気がついてしまったから、ライアン王子を目で追ってしまったのだろう。

「こちらを見てください。イザベラ様、あなた何か知っていますね。彼女は私に気があるのですか?ギータ侯爵に彼女が私への想いを伝えたら、私との婚約を彼は提案してくると思います。彼は彼女のことを自慢の一人娘と言って可愛がっていますから」

私は顎を掴まれライアン王子に見つめられる。
彼のこの目の奥の感情を読み取ろうとする仕草には緊張する。

「いや、あの、婚約の提案は来ないかと、あとハンカチも貰えないかと思います。ライアン王子はエリス様のこと気になってはいないのですか?彼女をとても認めているようにお見受けしますが」

エリス様はハンカチを渡したりせず、婚約者候補の能力試験に集中すると言っていた。
彼女は自分のやり方で、自分の愛する人の側にいようとしているのだ。

「イザベラ様と兄上のために婚約者候補としての能力選抜を受け、兄上の婚約者に選ばれて時間稼ぎをするなどと言ってましたか?ギータ侯爵令嬢はいつも感情が見えないのですが、今日は私にはラブビームを飛ばし、イザベラ様を愛おしそうに見ていました。彼女なら兄上の意図を察知し、愛おしいと感じたあなたの為にそれくらいしそうです」

「そうなのですか? 随分、エリス様について知っているのですね。ライアン王子は自分でも気がつかない間にエリス様に惹かれてそうですね」

「エリス様と呼び名まで変わっている。そして、明らかに私と彼女をくっつけようとしている。2人の間にあったやり取りはおおよそ理解できました。イザベラ様はララアとお昼を食べ次第、次のミッションである兄上へのハンカチ作りに励んでください」

「ハンカチ作りに全力で励みます。ライアン王子殿下は今まで通りの態度でエリス様に接してください」

私はエリス様と秘密を共有して彼女の秘密を守るつもりだった。
それなのにライアン王子が上手過ぎるのか、私の表情管理ができていないのか、あっという間に全てが露見してしまった。