「分かりました。内緒にします。私はサイラス様を怖いと思ったことはないです。実は、私はライアン王子殿下の見透かしてくるような感じが怖かったりします」

サイラス様はいつも甘く微笑んで私を見てくるが、ライアン王子は目が全く笑ってなくて怖い。

「兄上はイザベラ様に好かれたいから、怖さを見せていないだけですよ。先程、イザベラ様はケーク公爵令嬢が兄上の婚約者候補であることにショックを受けているようでしたね。でも、イザベラ様の気にすることではありません。兄上の婚約者候補は5人います。兄上が立太子して2年も経つので、婚約者を決めろとの貴族達からの圧力が強くなってきました。婚約者候補達に能力を競わせて、婚約者を決めることになるかもしれません。そのようにして婚約者を決めて、結局イザベラ様と結婚したりしたら、批判が来るのは避けられません。兄上は、イザベラ様と結婚するために、決定した婚約者を私に押し付けるでしょう。兄上が欲しいと思ったものを、手に入れられなかったのを見たことがありません。なので、私個人としましては障害があろうとイザベラ様は兄上のものになると思います。そして、私は本当は王妃になりたかったと不満を言い続ける妻と結婚する羽目になると予想しています。しかし現状において兄上がライ国の次期王妃になるイザベラ様との結婚を考えていることなど、国家間のことを考えると絶対に公にできません。私は兄上を信頼していますが、今後のことを考えると私が被害を受ける未来しか見えないのです。イザベラ様はそれについてどう思われますか?」

いつになく早口で捲し立ててくるライアン王子がやはり怖い。

「先程のケーク公爵令嬢のように、婚約者候補の競争が行われる前に、皆失格にしてしまうのはどうでしょうか」

「イザベラ様、あなたを過小評価していたことを謝罪させてください。私はあなたは王妃になるには優し過ぎると思っていました。しかし、上に立つものとしての冷酷な決断力をしっかり持っていらっしゃいます。私が半月間眠れずに悩んでいた事の解決策をあっさり出されてしまい、鳥肌が立ちました。明日から婚約者候補を叩きまくり、どんどん失格にしていきたいと思います」

「ありもしない事実で陥れるのだけはやめてください」
私は中学時代に白川愛に「綾は貧乏だから、売春や万引きをしている」とありもしない噂をたてられた事を思い出した。

「叩けば埃の出ない令嬢などいませんよ、私、調査能力には自信があるのです」
ライアン王子が生き生きと語ってくる。

「それにしても、私はサイラス様の婚約者候補が5人もいらっしゃることを知りませんでした」

「知らなくて当たり前です。イザベラ様に与えられる情報は完全に兄上によって統制されています。イザベラ様は婚約者候補が現れたら、自ら身を引きかねない性格をしています。そう言ったものはすべて兄上に読まれていると思ってください。ちなみに、今、私のこと早口だと思っていますね。兄上は私の2倍は早口ですよ。おそらく初見で何かイザベラ様に惹かれるものを感じた兄上は、あなたの好みを察知して穏やかで優しい口調にしています」

「ライアン王子殿下は確かに少し早口ですね。でも、私に対して沢山お喋りしてくれて嬉しいです。私、同年代とは上手く話せた試しがないので」

大学にも1ヶ月は通ったが友達の作り方がわからなかった上に、虐めのことを思い出し人と話すのが怖かった。
逆にバイト先で出会った年上の社員さんとは普通に話せたりした。

「イザベラ様は前世では何歳でお亡くなりになられたのですか?あなたはとても12歳とは思えない中身を持っていると思うのですが」

「18歳で亡くなっています。無念です」

「それならば、アカデミーの学生なんて子供だと思えませんか?交流会の時の様子を見るに、イザベラ様は周りの学生を怖がっているように見えました。虐められた記憶を思い出しますか?あなたから見れば子供のじゃれあいですよ。先程のケーク公爵令嬢首謀の虐めのおさめ方も秀逸でした。イザベラ様は本来、権力を盾にしたくない方な上にルブリス王子との婚約を破棄したいと考えている。しかし、あの場では今の自分の立場を利用して、ケーク公爵令嬢を黙らせてました。アライグマさえ出てこなければ完璧な場のおさめ方でした」

「お褒め頂きありがとうございます。前世の記憶と混同しないように気をつけます。少し気になったのですが、サイラス様は私の前で演技をしているのでしょうか?」

私はサイラス様が本当は穏やかで優しい方ではなく、冷たく早口だったとしても惹かれている気持ちは抑えられない。
もし、彼に演技をする負担をかけているのであれば、素の彼で向き合って欲しいと思ったのだ。