ライアン王子殿下に部屋を借りて、ミーア・リンド男爵令嬢の身だしなみを整えた。
「では、イザベラ様本当にありがとうございました」

「私も、これで失礼します。ライアン王子殿下、お部屋をお貸し頂きありがとうございます」
私もミーア様と一緒に去ろうとすると、ライアン王子殿下に腕を掴まれて驚いてしまう。

「不躾に腕を掴んでしまい失礼しました。しかし、私はまだイザベラ様にお話がありますのでお座りいただけますか?」

ライアン王子殿下はサイラス様と同じ澄んだ青い瞳を持っている。
今の彼の声色は優しいけれど、目が笑っていないのが分かり少し怖い。
私は大人しく彼に促されて、ソファーに座った。

「イザベラ様、我が国の恥部を見せてしまい申し訳ございませんでした。今回の件は厳重に対処します。居合わせた貴族令嬢は全員半年間の謹慎処分にする予定です。卒業も遅れるので、一生今日のことを後悔することになるでしょう。今後の縁談話もなかなか来なくなるでしょうね」

私の目をじっと見つめながら、ライアン王子殿下が語ってくる。
虐めの被害にあってきた私は自分が一生の忘れられない傷を負ったのだから、同じように加害者にも一生自分のしたことを忘れないで欲しいと願ってきたのは確かだ。

「皆様、ケーク公爵令嬢の指示で行っていただけで、本当に虐めをしたかった訳ではない気がするのです。ケーク公爵令嬢以外の令嬢の罪を軽くすることはできませんか?」

私が言った言葉にライアン王子殿下は顔を顰める。
「イザベラ様はリンド男爵令嬢の心を読んで、彼女を助けたのではないですか?彼女は自分の顔を池につけてきたケーク公爵令嬢の子分の令嬢の罪を軽くすることを望んでましたか?」

「私は、ミーア様の心は読んでいません。しかし、彼女はケーク公爵令嬢以外の令嬢の罪を軽くすることを望んではいないと思います」
私は自分が虐められていた時の感情を思い出した。
虐めの主犯も、実行する実行犯も、傍観者もみんな私にとっては加害者だった。

「イザベラ様は、やはり心が読めるのですね。そうでなければ、他国のいざこざに首を突っ込むはずがない。それから、アライグマとは何ですか? クマの仲間ですか? イザベラ様はルイ国にいらっしゃるまで、ライ国の首都から出たことがないとお聞きしました。クマが顔を池で洗うのはどこで見たのですか?」

私は矢継ぎばやにライアン王子が質問してくるので、少しパニックになってしまった。

「アライグマは、図鑑で見ました」
私はドレスを握りしめながら、彼から目を逸らし呟いた。

私の顎に手を添えて、ライアン王子が私の瞳を食い入るように見つめてくる。
サイラス様と似ているからだろうか、なんだか変な気持ちになって緊張してくる。

「私は人の嘘を見抜くのが得意なんです。イザベラ様は何を隠しているのですか?教えてください」

「私は、こことは違う世界の前世の記憶があります。アライグマはそこにいた動物です。私は人の心は読めません。前世でミーア様と同じような虐めにあっていて、そのことに絶望したまま死んだんです。私はその時の自分を助けるような気持ちで、彼女を助けました」
ライアン王子は催眠術でも使えるのだろうか、気がつけばサイラス様にしか話してない前世のことを話していた。

「今の言葉は本当だと分かりますよ。かなり大きな秘密を私に明かしていると思うのですが、その秘密について知っているのは誰ですか?兄上とだけ秘密を共有していたのではないですか?」

「その通りです。私が異なる世界の記憶があることはサイラス様だけが知っています」

「申し訳ございません、イザベラ様。聞いてはいけないことを、聞いてしまった気がします。兄上には私があなたの秘密について聞いたことは内緒にしておいてください」

突然、動揺したような態度を見せてくるライアン王子に私の方が驚いてしまう。

「えっ、なぜですか?」

「兄上に似ている私に少しときめいたことを暴露されたくなければ、兄上に、あなたの秘密を知ったことは内緒にしておいてくださいね。兄上はとっても怖い方なのですよ」

ライアン王子の言葉に、先程変な気分になったのは彼にときめいてしまったのだと自覚した。