「ルイ国の貴族の一員としての自覚を持った行動を心がけてください。私、ララア・ルイも皆様の模範となれるように心がけたいとおもいます。この伝統あるアカデミーの校長先生を始め先生方、先輩方、どうか温かいご指導をよろしくお願いいたします。以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」

今日から私はルイ国のアカデミーに通うことになった。

入学式には1000人以上の人間が出席しているのに、ララアは堂々と新入生代表の挨拶をしている。
サイラス様の言う通り、彼女は私と似て内向的な性格をしている。
だから、彼女がどれだけ常に気を張って外向的で堂々とした王女を演じているかが分かってしまうのだ。

「イザベラ、今日は式だけじゃなく交流会もあるんだって限界だよ」
入学式が終わり、王族のために用意されたアカデミーのVIPルームでララアは弱音を吐いていた。

「ララアは本当にすごいです。あれだけの人数の中、立派な挨拶をしていました。疲れた時は甘いものですよ。実は厨房を借りてララアの好きなマドレーヌを作ってきたのです」

ララアは私の作ったスイーツを美味しそうに食べてくれる。
王宮のパティシエには勝てそうもない味だろうに、私が作ったと言う事実が嬉しいらしい。

「ありがとう、イザベラ、好き。交流会行きたくないな、仮病を使って休もうかしら」

「ララアは体調が悪くて休んでいると伝えておきますね」

「イザベラは休まないの?なら、私も行くよ」
彼女はとても真面目なので、サボる気など初めからなかったのかもしれない。

彼女が猫のように私に擦り寄って甘えてくる。
これほどまで同年代の子と仲良くなれるとは思わなかったので、私は嬉しくなった。


「イザベラはロマンス小説の主人公みたいね。優しくて思いやりがあって魅力的な女の子。サイラスお兄様も、いかにもなヒロインの相手役よね。かっこよくて万能で優秀な次期国王だもの。でも、ルブリス王子との婚約破棄がどうしてもうまくいかないのよね。結局、ライト公爵家は扱いやすいルブリス王子を王位に据えることでライ国の王権を自由にしたいのでしょうね。ライト公爵がルブリス王子とイザベラの婚約に拘っているらしいじゃない。ルブリス王子もライト公爵家の後ろ盾が欲しいのだから、婚約破棄は容易じゃないわよね。あの抜け目のないサイラスお兄様が、イザベラを奪うという目的を2年も達成できないのだからライ国も相当複雑なんでしょうね」

私は自分が小説の主人公とは思ったことがなくて、気恥ずかしくなった。
それ以上に、ライト公爵がルブリス王子との婚約に拘っているのは初耳だった。
確かに私が転生して婚約破棄を望んでも、彼が話を聞いてくれるそぶりがなかったのは事実だ。

「ルブリス王子が浮気をして浮気相手と婚約を希望し、私を国外追放にしたらライト公爵はどうなさると思いますか?」

小説では卒業パーティーで、イザベラはフローラを身分が低いと見下し仲間はずれにしたという罪で断罪される。
仲間はずれもやられた側からすれば、一生心に消えない傷を負う酷い虐めだと思う。

しかし前世で犯罪まがいの虐めにあった私からすれば、仲間はずれにしたことで権力者の子であるイザベラを国外追放にできるとは思えないのだ。

前世で、私は教科書ノートを全て捨てられ、豚扱いを受け残飯処理をさせられ、赤信号を往復することを強制されて大怪我までした。

「王族と貴族の婚約よ。本人の意志なんて関係ないと思うわ。ルブリス王子に想い人ができても、せいぜい彼女を側室にするくらいでしょう。ライト公爵家の一人娘であるイザベラを王妃にしないと王権が揺らぐことくらいは理解できるはずよ。そもそも、イザベラがエドワード王子と婚約していたら、長子に王位を相続するなんてルールは無視されてエドワート王子が立太子していたでしょう。それだけ、あなたとの婚約が持つ意味がライ国にとって強いのよ。私としてはサイラスお兄様とイザベラが結ばれて、ルイ国の国王と王妃として活躍する展開を希望したいわ。私もイザベラと離れたくないしね」

卒業パーティーで、高々とルブリス王子がイザベラとの婚約破棄とフローラと婚約することを宣言するのが小説のあらすじだ。

しかし、実際はそんなに上手くいかず、フローラのためにルブリス王子がイザベラを国外に追い払おうと思っても政治的なことでそうもいかなそうだ。

「好きな人と一緒になるのは難しいのですね」
思わず漏れてしまった本音に、改めて私はサイラス様が好きなのだと再確認する。

「今、サイラスお兄様のことを好きだと認めたわね。私の前で言えるのに、どうして本人の前で言えないのかしら。まあ、イザベラが好きだとお兄様に伝えてしまうと、関係が進んでしまいそうだものね。結局お互いの思いが深まったところで、ルブリス王子と婚約が破棄できなくて離れ離れになったらきついわよね」