💭 🔁 ❤×?143
頼々子さんにメールを送った。
LI○Eの方が早く気付いてもらえるんじゃないかって? 昔、頼々子さんにLI○E聞いたら、『あんな物騒な物を刑事が使うわけないでしょ』って怒られた事がある。
メールには起こった事を時系列に書き連ねた。左目で視た物も余さず。
……けど、僕と星狩さんが2年4組を『呪い』に『登録』したという事実だけは、書けなかった。頼々子さんに責められるのが怖かったし、星狩さんに、僕がチクったみたいに思われるのも怖かった。
2年4組に、僕の味方は星狩さんしかいない。その彼女から嫌われてしまったら、僕は学校で生きていける気がしない。
PCを立ち上げ、小説を書きながら待つ。
スマホでの執筆も慣れたものだけど、やっぱりメンブレインキーボードこそ至高。ブラインドタッチはタイピングゲーで鍛えた。
いくらタイピングが早くても、間断なく執筆し続けるのは不可能だ。登場する幽霊のディテールを考えているうちに、手が止まってしまった。
今回のお話は、主人公がバスに乗ったら、乗客の幽霊と遭遇して――という物。
バスに乗った主人公が、気味の悪い乗客を見掛ける。
次々と降りていく乗客。終点で降りる予定の自分と、その客だけが車内に残っている。
終点に着いて、主人公は逃げるようにバスから降りる。
後ろから例の客も降りてくるのかな。気味悪いからさっさと行こう――などと考えていると、その客を降ろすことなく、バスは行ってしまった。
え? どういう事? さっきの客、降りないまま行っちゃったけど、まさか――
と、振り向いたところで目の前に例の客が居た。
『ぎゃぁあああ!』なんて主人公の悲鳴を入れるほど野暮な事はしない。
まぁ、ホラーに良くある典型的な『信頼出来ない語り手』のお話。主人公が無自覚に霊視をしていて、幽霊を生きている人間だと誤認するってわけだね。
この手のお話では、どれだけ上手に主人公イコール読者を騙せるかが肝になる。だから、『質感』ある幽霊さんをしっかり書き込まなきゃならない。
その『質感』をどう出そうか決めあぐねているうちに、手癖で『カクヨム』の『読者からの反応』欄を開いてしまう。
過去にもらった感想を1つずつ大切に読み返しながら、順に下へスクロールしていくと、感想が9月の物から8月の物に変わる。
すると突然、とある読み専の人の名で、感想欄が埋め尽くされた。
スターハンターさん。
半年前くらいに僕の事を見つけてくれて、以来僕の作品を全て読んでくれ、いいねと感想をくれていた、言わば僕のファンの方だ。
性別も年齢も分からない。でも僕にとっては、創作活動の命綱ってくらいに大事な人だった。
たった1人でも、毎回読んでくれて、感想をくれる人が居るっていうのは、本当に心の支えになる。
けれど……この人とは、とある出来事を機に疎遠になってしまった。
……気が付くと、30分ほど経過していた。
メールの受信ボックスには、
「頼々子さん!」
頼々子さんからの返信が届いていた。メールの内容は、
『委細了解』
『至急、専門家を召集の上、向かいたい』
『しかしながら、現在担当中の案件の引継ぎ及び専門家の招集に1週間ほど掛かる』
『そちらでも引き続き情報収集に努めて欲しい』
という物。
事務的で淡々とした内容ながら、とてつもない頼もしさを感じる。
1週間後、というと2年生は修学旅行で神戸に居るはずだ。
もっとも、これだけの異常事態の只中で、学校が修学旅行を決行するとも思えないけれど。
そして、今後も毎日1分ずつ減っていくとしたら、52分につき1いいねが必要になっている事だろう。
『警視庁刑事部捜査第4課』――通称『死課』所属の警部、頼朝頼子さん。
公には存在しない事になっている『死課』は、そういう事件を専門に扱う部署だ。
頼々子さん自身には霊感は無いのだけれど、彼女から支給してもらえる塩やお札の威力はよくよく知っている。
霊感があって、なおかつ除霊能力を持つ『専門家』というのは全国に一定数いるそうなんだけど、彼ら彼女らはいつも忙しい。だから事前調査役として、僕のような『視る事しか出来ない』人員も、重宝されるというわけ。
頼々子さんは本庁から長い間、神戸に派遣されていて、僕は彼女と神戸で出会った。
あれはまだ、僕が小学6年生だった頃の事。
――僕は、轢き逃げに遭った。
当時『親友』と呼び合っていた友だち――立見友樹くんも一緒だった。
僕は全身打撲と複数個所の複雑骨折、そして左目の失明だけで済んだけど、友樹くんの方は即死だった。
友樹くんのご両親は、我が子の死を悲しみながらも、友樹くんの角膜を僕に移植する事に同意してくれた。
現場が閑散とした住宅街であり、日が落ちた後の事故だった為か、轢き逃げ犯はなかなか見つからなかった。
視力が戻ってしばらくすると、僕は左目の視界に黒い靄のようなモノが見える事に気付いた。
医者からは、飛蚊症だろうと言われた。事実、事故の時に硝子体が圧迫されたのが原因で、僕の左目には多少なり鬱陶しい飛蚊症がある。
けれど飛蚊症と言うのは眼球内の歪みを映し出すものだから、視線を動かせば一緒に付いてくる。
でも、その『靄』は違った。靄は部屋の隅や物陰に潜んでいて、僕が眼球を動かしても移動しないんだ。
僕が強弁すると母は半狂乱になり、医者からは脳ドックと児童精神科の受診を勧められた。
つまり、事故の影響で脳が物理的におかしくなっているか、はたまたトラウマが原因で精神的におかしくなっている、と診断されたというわけだ。
だけど『ソレ』は、間違い無く、居た。
次第に、靄は人の姿を取るようになった。薄々勘付きながらも、僕は『ソレ』らの分析に努めた。
ソレらは明るい場所よりも暗い場所を好んだ。
ソレらは日中よりも夕方以降を好んだ。
ソレらは特に、病院と墓地を好んだ――。
そうして、すべてを自覚した時、僕は、僕の背後に潜む人影の存在に、気付いた。
頼々子さんにメールを送った。
LI○Eの方が早く気付いてもらえるんじゃないかって? 昔、頼々子さんにLI○E聞いたら、『あんな物騒な物を刑事が使うわけないでしょ』って怒られた事がある。
メールには起こった事を時系列に書き連ねた。左目で視た物も余さず。
……けど、僕と星狩さんが2年4組を『呪い』に『登録』したという事実だけは、書けなかった。頼々子さんに責められるのが怖かったし、星狩さんに、僕がチクったみたいに思われるのも怖かった。
2年4組に、僕の味方は星狩さんしかいない。その彼女から嫌われてしまったら、僕は学校で生きていける気がしない。
PCを立ち上げ、小説を書きながら待つ。
スマホでの執筆も慣れたものだけど、やっぱりメンブレインキーボードこそ至高。ブラインドタッチはタイピングゲーで鍛えた。
いくらタイピングが早くても、間断なく執筆し続けるのは不可能だ。登場する幽霊のディテールを考えているうちに、手が止まってしまった。
今回のお話は、主人公がバスに乗ったら、乗客の幽霊と遭遇して――という物。
バスに乗った主人公が、気味の悪い乗客を見掛ける。
次々と降りていく乗客。終点で降りる予定の自分と、その客だけが車内に残っている。
終点に着いて、主人公は逃げるようにバスから降りる。
後ろから例の客も降りてくるのかな。気味悪いからさっさと行こう――などと考えていると、その客を降ろすことなく、バスは行ってしまった。
え? どういう事? さっきの客、降りないまま行っちゃったけど、まさか――
と、振り向いたところで目の前に例の客が居た。
『ぎゃぁあああ!』なんて主人公の悲鳴を入れるほど野暮な事はしない。
まぁ、ホラーに良くある典型的な『信頼出来ない語り手』のお話。主人公が無自覚に霊視をしていて、幽霊を生きている人間だと誤認するってわけだね。
この手のお話では、どれだけ上手に主人公イコール読者を騙せるかが肝になる。だから、『質感』ある幽霊さんをしっかり書き込まなきゃならない。
その『質感』をどう出そうか決めあぐねているうちに、手癖で『カクヨム』の『読者からの反応』欄を開いてしまう。
過去にもらった感想を1つずつ大切に読み返しながら、順に下へスクロールしていくと、感想が9月の物から8月の物に変わる。
すると突然、とある読み専の人の名で、感想欄が埋め尽くされた。
スターハンターさん。
半年前くらいに僕の事を見つけてくれて、以来僕の作品を全て読んでくれ、いいねと感想をくれていた、言わば僕のファンの方だ。
性別も年齢も分からない。でも僕にとっては、創作活動の命綱ってくらいに大事な人だった。
たった1人でも、毎回読んでくれて、感想をくれる人が居るっていうのは、本当に心の支えになる。
けれど……この人とは、とある出来事を機に疎遠になってしまった。
……気が付くと、30分ほど経過していた。
メールの受信ボックスには、
「頼々子さん!」
頼々子さんからの返信が届いていた。メールの内容は、
『委細了解』
『至急、専門家を召集の上、向かいたい』
『しかしながら、現在担当中の案件の引継ぎ及び専門家の招集に1週間ほど掛かる』
『そちらでも引き続き情報収集に努めて欲しい』
という物。
事務的で淡々とした内容ながら、とてつもない頼もしさを感じる。
1週間後、というと2年生は修学旅行で神戸に居るはずだ。
もっとも、これだけの異常事態の只中で、学校が修学旅行を決行するとも思えないけれど。
そして、今後も毎日1分ずつ減っていくとしたら、52分につき1いいねが必要になっている事だろう。
『警視庁刑事部捜査第4課』――通称『死課』所属の警部、頼朝頼子さん。
公には存在しない事になっている『死課』は、そういう事件を専門に扱う部署だ。
頼々子さん自身には霊感は無いのだけれど、彼女から支給してもらえる塩やお札の威力はよくよく知っている。
霊感があって、なおかつ除霊能力を持つ『専門家』というのは全国に一定数いるそうなんだけど、彼ら彼女らはいつも忙しい。だから事前調査役として、僕のような『視る事しか出来ない』人員も、重宝されるというわけ。
頼々子さんは本庁から長い間、神戸に派遣されていて、僕は彼女と神戸で出会った。
あれはまだ、僕が小学6年生だった頃の事。
――僕は、轢き逃げに遭った。
当時『親友』と呼び合っていた友だち――立見友樹くんも一緒だった。
僕は全身打撲と複数個所の複雑骨折、そして左目の失明だけで済んだけど、友樹くんの方は即死だった。
友樹くんのご両親は、我が子の死を悲しみながらも、友樹くんの角膜を僕に移植する事に同意してくれた。
現場が閑散とした住宅街であり、日が落ちた後の事故だった為か、轢き逃げ犯はなかなか見つからなかった。
視力が戻ってしばらくすると、僕は左目の視界に黒い靄のようなモノが見える事に気付いた。
医者からは、飛蚊症だろうと言われた。事実、事故の時に硝子体が圧迫されたのが原因で、僕の左目には多少なり鬱陶しい飛蚊症がある。
けれど飛蚊症と言うのは眼球内の歪みを映し出すものだから、視線を動かせば一緒に付いてくる。
でも、その『靄』は違った。靄は部屋の隅や物陰に潜んでいて、僕が眼球を動かしても移動しないんだ。
僕が強弁すると母は半狂乱になり、医者からは脳ドックと児童精神科の受診を勧められた。
つまり、事故の影響で脳が物理的におかしくなっているか、はたまたトラウマが原因で精神的におかしくなっている、と診断されたというわけだ。
だけど『ソレ』は、間違い無く、居た。
次第に、靄は人の姿を取るようになった。薄々勘付きながらも、僕は『ソレ』らの分析に努めた。
ソレらは明るい場所よりも暗い場所を好んだ。
ソレらは日中よりも夕方以降を好んだ。
ソレらは特に、病院と墓地を好んだ――。
そうして、すべてを自覚した時、僕は、僕の背後に潜む人影の存在に、気付いた。