「石川さん何か御用ですか?」
石川藍子が大学を辞めてから、彼女と会うのは初めてだ。
私の中で彼女への復讐は終了しているので、敢えて会いたいとは思っていなかった。
石川藍子は寛也を一瞥した後、ため息をついて小声で私に囁いてきた。
「慰謝料の額だけど減額して欲しい。というか、慰謝料は出来ればなしにして欲しい。だって、あんたお金沢山持ってるじゃない」
私は石川藍子の態度と言い分に呆れてしまった。
「私の経済状況は石川さんには関係ないですよ。慰謝料は自分がした事の申し訳料だって理解してます?」
石川藍子は納得がいかなそうにむくれて、タワーマンションに入ろうとする私たちの進路を塞ぐ。
「うちの家、経済的に厳しいのよ」
「石川さんのご家庭の事情は、私には全く関係ありません。大学辞めて時間があるのだから、石川さんが働いて慰謝料を払えば良いだけです」
私は藍子とはもう関わりたくない。こんな面倒になるなら、彼女を刑事告訴して警察にお任せすれば良かった。悪いことをしたのに罪を償わず減刑してくれと被害者に直接言いにくる彼女は救いようがない。
「何でも持ってる癖に庶民に、慈悲も掛けられないなんて心が貧しいのね」
「すみません。私、石川さんとはもう話す気はありません」
藍子から見て私は何でも持っているように見えるらしい。
お金よりも温かい家庭が欲しかった私の気持ちは彼女には理解できない。
「⋯⋯あんたにちょっと嫉妬して意地悪したくなっただけなのよ。私、寛也先輩のこと良いなって思ってたし⋯⋯」
藍子のが意を決したように囁いた言葉に、寛也がなんとも言えない顔をした。
「私に嫉妬ですか? 寛也君と石川さんは肉体関係にありますよね? 私と彼はただの友達ですよ」
「何言ってるのアオちゃん! 俺と彼女に肉体関係なんかないから誤解しないで!」
寛也が慌てて弁明してくるのを見て、肉体関係があったのは回帰前の話かと思い直す。
「まあ、どちらにしろ私には関係ありません。石川さん、私は貴方みたいに利用しようとして近付いてくる人が一番嫌いです。生まれも育ちも違うのに他人の事を妬む人も嫌いです」
藍子は黙って私を睨みつけていた。
「もう二度と私の前に現れないでください!」
私が最後とばかりに冷たく言い放つと藍子は逃げ出した。
「⋯⋯人って、あまり変わらないものなんですね」
なんだかガッカリしてしまった。私の知る限り別人レベルに変わったのは寛也だけだ。
タワーマンションのエントランスホールを抜けて、エレベーターに乗る。ずっと目を伏せて黙ってる寛也を見ながら、回帰前チャラかった彼に告白された事を思い出していた。
「アオちゃん⋯⋯実は⋯⋯」
「なんですか?」
寛也は何か打ち明けたそうな顔をしていた。口籠もりながらも、私の目を真剣に見つめてくる。実は寛也のフリをした双子の弟だとか、自分もタイムリープしてるとか爆弾発言が出てきそうだ。
「俺、童貞なんだ⋯⋯」
寛也は何を言いたいのだろう。私には全く分からなかった。海外では割と女性経験を自慢する男性が多かったが、日本は慎ましやかな文化だから童貞を重んじるのかもしれない。
「奇遇ですね。私も処女です」
とりあえず、私も自慢してみることにした。
「えっ?」
「あっ、着きましたよ。寛也君、今日はありがとうございました」
25階に到着したので、彼を見送った。
私の初めての彼は本当に不思議な男だ。
石川藍子が大学を辞めてから、彼女と会うのは初めてだ。
私の中で彼女への復讐は終了しているので、敢えて会いたいとは思っていなかった。
石川藍子は寛也を一瞥した後、ため息をついて小声で私に囁いてきた。
「慰謝料の額だけど減額して欲しい。というか、慰謝料は出来ればなしにして欲しい。だって、あんたお金沢山持ってるじゃない」
私は石川藍子の態度と言い分に呆れてしまった。
「私の経済状況は石川さんには関係ないですよ。慰謝料は自分がした事の申し訳料だって理解してます?」
石川藍子は納得がいかなそうにむくれて、タワーマンションに入ろうとする私たちの進路を塞ぐ。
「うちの家、経済的に厳しいのよ」
「石川さんのご家庭の事情は、私には全く関係ありません。大学辞めて時間があるのだから、石川さんが働いて慰謝料を払えば良いだけです」
私は藍子とはもう関わりたくない。こんな面倒になるなら、彼女を刑事告訴して警察にお任せすれば良かった。悪いことをしたのに罪を償わず減刑してくれと被害者に直接言いにくる彼女は救いようがない。
「何でも持ってる癖に庶民に、慈悲も掛けられないなんて心が貧しいのね」
「すみません。私、石川さんとはもう話す気はありません」
藍子から見て私は何でも持っているように見えるらしい。
お金よりも温かい家庭が欲しかった私の気持ちは彼女には理解できない。
「⋯⋯あんたにちょっと嫉妬して意地悪したくなっただけなのよ。私、寛也先輩のこと良いなって思ってたし⋯⋯」
藍子のが意を決したように囁いた言葉に、寛也がなんとも言えない顔をした。
「私に嫉妬ですか? 寛也君と石川さんは肉体関係にありますよね? 私と彼はただの友達ですよ」
「何言ってるのアオちゃん! 俺と彼女に肉体関係なんかないから誤解しないで!」
寛也が慌てて弁明してくるのを見て、肉体関係があったのは回帰前の話かと思い直す。
「まあ、どちらにしろ私には関係ありません。石川さん、私は貴方みたいに利用しようとして近付いてくる人が一番嫌いです。生まれも育ちも違うのに他人の事を妬む人も嫌いです」
藍子は黙って私を睨みつけていた。
「もう二度と私の前に現れないでください!」
私が最後とばかりに冷たく言い放つと藍子は逃げ出した。
「⋯⋯人って、あまり変わらないものなんですね」
なんだかガッカリしてしまった。私の知る限り別人レベルに変わったのは寛也だけだ。
タワーマンションのエントランスホールを抜けて、エレベーターに乗る。ずっと目を伏せて黙ってる寛也を見ながら、回帰前チャラかった彼に告白された事を思い出していた。
「アオちゃん⋯⋯実は⋯⋯」
「なんですか?」
寛也は何か打ち明けたそうな顔をしていた。口籠もりながらも、私の目を真剣に見つめてくる。実は寛也のフリをした双子の弟だとか、自分もタイムリープしてるとか爆弾発言が出てきそうだ。
「俺、童貞なんだ⋯⋯」
寛也は何を言いたいのだろう。私には全く分からなかった。海外では割と女性経験を自慢する男性が多かったが、日本は慎ましやかな文化だから童貞を重んじるのかもしれない。
「奇遇ですね。私も処女です」
とりあえず、私も自慢してみることにした。
「えっ?」
「あっ、着きましたよ。寛也君、今日はありがとうございました」
25階に到着したので、彼を見送った。
私の初めての彼は本当に不思議な男だ。