今日は運命の日だ。
40階で火事が起こって、健太郎さんが亡くなる日。
「アオちゃん、誕生日おめでとう。プレゼントがあるから部屋に来てくれる? 」
寛也は回帰前のこの日、私を自分の部屋に誘った。
回帰前は、彼が泊まっていて欲しいと頼んできて、自分がプレゼントだというのを気持ち悪いと思った。
「誕生日プレゼント楽しみです」
私は初めて、寛也の部屋に行く。
回帰して最初に復讐をしたいと思ったのは、彼に対してだ。
しかし、今はあの日見た彼は本当の彼じゃなかったのではないかと思っている。
私は回帰前、自分を偽っていた。
偽りの私の鏡のように、彼も自分を偽っていたのではないかと今は思う。
チャラそうな見た目に惑わされていたが、彼は半年付き合っても手を繋いでくるだけだった。
おそらく部屋に連れ込まれて、いやらしいことされると考えていたのは私の思い込みだ。
転学部試験に合格したのは、ほぼ彼のお陰だ。
毎日、私のために教材を作っていた彼は私以上に大変だったのではないだろうか。
彼は回帰前のように私を恋人にしたいとは言ってこない。
彼はただ親切な人なのだ。
日本人を苦手と思っていたけど、彼は几帳面で真面目な日本人の素晴らしさを全て持っている。
私は多分日本の「おもてなし」というものを、これから受けるのだろう。
「いらっしゃい、アオちゃん」
彼の部屋はモノトーンで、とてもオシャレな部屋だった。
「オシャレですね。モデルハウスみたいです」
私が言うと彼は困った顔をした。
「俺がほとんどの時間を過ごしているのはこの部屋だよ。アオちゃん、君へのプレゼントもここにあるので入って」
扉を開けると、典型的な日本のオタクの部屋だった。
可愛い女の子のフィギュアとか、男向けのラブコメみたいな漫画やゲームなどが並んでいる。
彼の几帳面な性格を示すように、綺麗に博物館のように陳列されていた。
メガネを掛けた小太りの日本人が住む、オタク天国みたいな部屋だ。
「このようなアニメを1度見たことがあります。階段を落ちた女の子の胸の間に、男の子の顔が挟まれていました。私は恥ずかしくて2度と見れませんでしたが、佐々木さんは全巻集められる方なのですね。すごいです」
恥ずかしいと諦めずに、最後までみる日本人の忍耐力を彼は持っている。
そして、彼の興味の対象する探究心は私にはなく尊敬できる。
寛也は分かりやすくモテそうで、チャラそうな顔をしている。
そのような彼が、こんな趣味を持っているとは思っても見なかった。
こんなに見た目と中身が違う人間がいるということに驚いた。
「アオちゃん、辛辣すぎ。でも、これが本当の俺なんだ。アオちゃん、両親が自分を見ていないと寂しがってたけど、8歳の時から君を追い続けている人間がいること知って」
彼が恥ずかしそうに本棚から分厚いスクラップブックを20冊くらい出してきた。
そこには私の8歳からの写真や、彼の謎のコメントが並んでいた。
これは、私が憧れてた成長を記録するアルバムというやつだ。
「佐々木さん、赤ちゃんの時からの私の写真はないのですか?」
「ごめん流石にないわ。8歳の時にアオちゃんを知ったの。その時から、君のことを応援したいと思って追い続けてたよ」
私は、寛也の言葉にとても幸せな気持ちになった。
回帰前も彼は私にこれを見せたかったのだと思えた。
「何よりのプレゼントです。佐々木さん、ありがとうございます」
私はカバンに彼のスクラップブックを詰め始めた。
こんな心の籠ったプレゼントをもらったのは初めてだ。
一般人の私をこんな風に追いかけて、一歩間違えればストーカーだ。
しかし、私にとっては嬉しすぎるストーカー。
自分の親にもペットのように思われていた私を、ずっと見てくれていた人がいた。
「え、ちょっと」
寛也が明らかに戸惑っている。
もしかして、これは見せるだけでプレゼントではなかったのかもしれない。
でも、ものすごく丁寧に綺麗に作られていて愛情が込められている品なので絶対に欲しい。
「嬉しいです。本当にありがとうございます!」
どうしても欲しいので、彼が引き下がれないようにダメ押しをした。
「アオちゃんが喜んでくれて嬉しいよ⋯⋯実はもう1つ君にプレゼントがあるんだ」
こちらが、彼が本当に用意してくれていたプレゼントだろう。
彼は「ノーと言えない」日本人だったみたいだ。
彼の不器用さを利用してしまい申し訳ないが、私は成長記録アルバムが欲しいのでこのまま貰う。
「なんですか? 楽しみです」
「実はアオちゃんのお兄さんの鈴木アオイが見つかったよ。会いたかったら、日程を調整するけれどどうする?」
私は寛也に腹違いの兄がいる話と、兄に会いたくて探しても見つからない話をしたことがあった気がする。
何気なくした私の話を、彼は覚えていてくれた。
海外の日本人コミュニティーを探しても、彼は見つからなかった。
「もちろん、アオイさんに会いたいです」
寛也は私に内緒で、ずっと彼を探してくれていたということだ。
「アオちゃん、実はもう彼とはコンタクトをとっているんだ。彼はとんでもなく優秀な人物で驚いたよ。そして、父親を殺したいほど憎んでいる。アオちゃんの話をしたら、会って話をしたいと言ってたよ」
寛也が鈴木アオイの資料を私に渡してくる。
「すごいですね。そんな制度があるんですか? 女を利用して、上にいく父とは比べてはいけないレベルの方ではないですか」
彼は国費で海外の一流大学に行かせてもらえる人だった。
謙虚な鈴木さんが「とんでもない優秀な遺伝子」と言っていたわけだ。
卒業後も一代で会社を築き、木嶋グループに負けないものにしている。
私は海外の日本人コミュニティーばかり探していたが、彼はコミュニティーに属さないワールドワイドな方だった。
「アオちゃん相変わらず辛辣だね」
私を愛おしそうに眺める寛也は、今は私と付き合いたいと言ってこない。
彼は私にはない探究心を持つ、日本人の美徳を詰め込んだような人だ。
私は今の彼なら好きになってしまいそうなのに、皮肉なものだ。
これが日本の漫画によくある「すれ違い」というやつなのだろう。
きっと恋とはタイミングだ。
彼が今、私に恋をしてなくて心から良かったと思う。
これだけ尽くしてもらって私への強い想いを見せられた後に、回帰前のように告白されたら流石に困る。
40階で火事が起こって、健太郎さんが亡くなる日。
「アオちゃん、誕生日おめでとう。プレゼントがあるから部屋に来てくれる? 」
寛也は回帰前のこの日、私を自分の部屋に誘った。
回帰前は、彼が泊まっていて欲しいと頼んできて、自分がプレゼントだというのを気持ち悪いと思った。
「誕生日プレゼント楽しみです」
私は初めて、寛也の部屋に行く。
回帰して最初に復讐をしたいと思ったのは、彼に対してだ。
しかし、今はあの日見た彼は本当の彼じゃなかったのではないかと思っている。
私は回帰前、自分を偽っていた。
偽りの私の鏡のように、彼も自分を偽っていたのではないかと今は思う。
チャラそうな見た目に惑わされていたが、彼は半年付き合っても手を繋いでくるだけだった。
おそらく部屋に連れ込まれて、いやらしいことされると考えていたのは私の思い込みだ。
転学部試験に合格したのは、ほぼ彼のお陰だ。
毎日、私のために教材を作っていた彼は私以上に大変だったのではないだろうか。
彼は回帰前のように私を恋人にしたいとは言ってこない。
彼はただ親切な人なのだ。
日本人を苦手と思っていたけど、彼は几帳面で真面目な日本人の素晴らしさを全て持っている。
私は多分日本の「おもてなし」というものを、これから受けるのだろう。
「いらっしゃい、アオちゃん」
彼の部屋はモノトーンで、とてもオシャレな部屋だった。
「オシャレですね。モデルハウスみたいです」
私が言うと彼は困った顔をした。
「俺がほとんどの時間を過ごしているのはこの部屋だよ。アオちゃん、君へのプレゼントもここにあるので入って」
扉を開けると、典型的な日本のオタクの部屋だった。
可愛い女の子のフィギュアとか、男向けのラブコメみたいな漫画やゲームなどが並んでいる。
彼の几帳面な性格を示すように、綺麗に博物館のように陳列されていた。
メガネを掛けた小太りの日本人が住む、オタク天国みたいな部屋だ。
「このようなアニメを1度見たことがあります。階段を落ちた女の子の胸の間に、男の子の顔が挟まれていました。私は恥ずかしくて2度と見れませんでしたが、佐々木さんは全巻集められる方なのですね。すごいです」
恥ずかしいと諦めずに、最後までみる日本人の忍耐力を彼は持っている。
そして、彼の興味の対象する探究心は私にはなく尊敬できる。
寛也は分かりやすくモテそうで、チャラそうな顔をしている。
そのような彼が、こんな趣味を持っているとは思っても見なかった。
こんなに見た目と中身が違う人間がいるということに驚いた。
「アオちゃん、辛辣すぎ。でも、これが本当の俺なんだ。アオちゃん、両親が自分を見ていないと寂しがってたけど、8歳の時から君を追い続けている人間がいること知って」
彼が恥ずかしそうに本棚から分厚いスクラップブックを20冊くらい出してきた。
そこには私の8歳からの写真や、彼の謎のコメントが並んでいた。
これは、私が憧れてた成長を記録するアルバムというやつだ。
「佐々木さん、赤ちゃんの時からの私の写真はないのですか?」
「ごめん流石にないわ。8歳の時にアオちゃんを知ったの。その時から、君のことを応援したいと思って追い続けてたよ」
私は、寛也の言葉にとても幸せな気持ちになった。
回帰前も彼は私にこれを見せたかったのだと思えた。
「何よりのプレゼントです。佐々木さん、ありがとうございます」
私はカバンに彼のスクラップブックを詰め始めた。
こんな心の籠ったプレゼントをもらったのは初めてだ。
一般人の私をこんな風に追いかけて、一歩間違えればストーカーだ。
しかし、私にとっては嬉しすぎるストーカー。
自分の親にもペットのように思われていた私を、ずっと見てくれていた人がいた。
「え、ちょっと」
寛也が明らかに戸惑っている。
もしかして、これは見せるだけでプレゼントではなかったのかもしれない。
でも、ものすごく丁寧に綺麗に作られていて愛情が込められている品なので絶対に欲しい。
「嬉しいです。本当にありがとうございます!」
どうしても欲しいので、彼が引き下がれないようにダメ押しをした。
「アオちゃんが喜んでくれて嬉しいよ⋯⋯実はもう1つ君にプレゼントがあるんだ」
こちらが、彼が本当に用意してくれていたプレゼントだろう。
彼は「ノーと言えない」日本人だったみたいだ。
彼の不器用さを利用してしまい申し訳ないが、私は成長記録アルバムが欲しいのでこのまま貰う。
「なんですか? 楽しみです」
「実はアオちゃんのお兄さんの鈴木アオイが見つかったよ。会いたかったら、日程を調整するけれどどうする?」
私は寛也に腹違いの兄がいる話と、兄に会いたくて探しても見つからない話をしたことがあった気がする。
何気なくした私の話を、彼は覚えていてくれた。
海外の日本人コミュニティーを探しても、彼は見つからなかった。
「もちろん、アオイさんに会いたいです」
寛也は私に内緒で、ずっと彼を探してくれていたということだ。
「アオちゃん、実はもう彼とはコンタクトをとっているんだ。彼はとんでもなく優秀な人物で驚いたよ。そして、父親を殺したいほど憎んでいる。アオちゃんの話をしたら、会って話をしたいと言ってたよ」
寛也が鈴木アオイの資料を私に渡してくる。
「すごいですね。そんな制度があるんですか? 女を利用して、上にいく父とは比べてはいけないレベルの方ではないですか」
彼は国費で海外の一流大学に行かせてもらえる人だった。
謙虚な鈴木さんが「とんでもない優秀な遺伝子」と言っていたわけだ。
卒業後も一代で会社を築き、木嶋グループに負けないものにしている。
私は海外の日本人コミュニティーばかり探していたが、彼はコミュニティーに属さないワールドワイドな方だった。
「アオちゃん相変わらず辛辣だね」
私を愛おしそうに眺める寛也は、今は私と付き合いたいと言ってこない。
彼は私にはない探究心を持つ、日本人の美徳を詰め込んだような人だ。
私は今の彼なら好きになってしまいそうなのに、皮肉なものだ。
これが日本の漫画によくある「すれ違い」というやつなのだろう。
きっと恋とはタイミングだ。
彼が今、私に恋をしてなくて心から良かったと思う。
これだけ尽くしてもらって私への強い想いを見せられた後に、回帰前のように告白されたら流石に困る。