佐々木寛也の人生は、小学校3年生までは順調だった。
両親は医師で、父は総合病院の院長をしてる。
双子の弟がいるが、揃って小学校受験最高峰と言われる学校に受かった。
しかし、小学校2年生あたりから弟の優秀さが際立ってきた。
大学までエスカレーターであがれるが、うちの場合は医学部に入らなければ意味がない。
俺の頭では一握りしか入れない医学部は無理だと、小2にして両親に見限られた。
親は俺を見限っているので、勉強するようにとプレッシャーさえかけてもこなかった。
弟の存在があるから、俺は経済学部にでも入って病院の理事にでも名を連ねれば良いらしい。
つまり、一生弟のヒモでいろと宣告されたのだ。
そのような時、テレビで木嶋隆の特集をやっていた。
田舎から出てきて成功した男の物語だ。
「妻が中学生の時、家庭教師をした縁で結婚したんです。お互い初恋同士で」
そう語る木嶋に反吐が出た。
大学生が中学生に恋なんてするわけがない。
それが事実ならば、彼はロリコンだ。
彼の田舎での苦労話を、美談にしてるやり方も気持ち悪かった。
そして紹介された妻、木嶋翠も家柄しかない馬鹿女だった。
彼女の学歴が、明らかに金さえ積めば誰でも入れる私立女子校出身だ。
日本一の天才を家庭教師にすれば、バカが治るとでも親は思ったのだろう。
『ラブラブの木嶋夫婦は今日も一緒にオペラ鑑賞。娘を7ヶ国語を操る家庭教師に預けた』
テレビで流れたテロップと同時に、英才教育を施される木嶋アオちゃんが映し出された。
彼女は、天使のような可愛い女の子だった。
そして、彼女は泣きそうな苦しい顔で勉強をしていた。
俺はその親の期待に応えようと必死な表情に心を奪われた。
彼女は、両親が帰ってくると満面の笑顔で彼らを迎えていた。
それから俺は木嶋アオちゃんに夢中になった。
木嶋夫婦はアオちゃんをしょっちゅう素敵家族アピールに使っていたから、彼女の画像はたくさん拾えた。
アオちゃんを見てる時は、現実を忘れられた。
今日は本当に気持ちが落ち込んでいた。
経営する病院のすぐ裏にある実家には将来的に弟が住む。
両親は俺を追い出すように、節税目的で買ったマンションに追いやった。
「誕生日に車を買ってあげるけれど何が良い?」
半年ぶりの親からの電話だった。
もう、親はイベントの時しか俺に連絡さえしようとしない。
虚しさに打ちひしがられた時『フリーデリヘル藍子』を呼んでしまった。
石川藍子は大学からうちに入ってきた。
彼女が頭も股も緩いことは、内部生では有名な話だ。
彼女は内部生から『フリーデリヘル藍子』と呼ばれている。
呼べばいつでも急いで駆けつけて、やらせてくれるからだ。
彼女自身は自分が内部生に入り込めていて、モテていると勘違いしている痛い女だ。
自分でも情けない気持ちになりながら、マンションに戻ると画面や雑誌で追いかけ続けた木嶋アオちゃんがいた。
見かけた瞬間、胸の高まりが止まらなくなった。
俺は見た目が派手なせいか遊んでいると思われるが、実際は隠キャだ。
俺の一番の趣味はアオちゃんの情報を検索して収集することだ。
しかし、アオちゃんは俺を見るなり「2度と話しかけるな」と言った。
彼女に関連するものは全てチェックしてきた。
彼女はとても真面目な頑張り屋で、天然な可愛い子だと思っていた。
でも、実際は想像と違っていて思ったより気の強い攻撃的な子だった。
その上、俺が一番嫌いな男が彼女の「フィアンセ」だと言って現れた。
「甘城健太郎」は俺が一番嫌いな男だ。
地方出身だから、東京で一旗揚げれば地元に帰ればヒーローだろう。
小2で人生を積んだ俺から見れば、逃げ道のある彼の境遇が羨ましかった。
しかも、彼は塩顔ブームと良い人そうな顔で話題になった。
同じようなことをしている会社はあるのに、彼の会社がクローズアップされた。
時代の寵児のようになり、引っ越したマンションの最上階に住んでいると聞いた時にはムカついた。
ここに住んでいると、常に彼が上にいることを感じるからだ。
インタビューで彼が「お酒が苦手」とこたえれば、彼の過去を調べたファンが飲酒運転で家族を無くしたことをネットに流した。
同情票のようなものか、彼のビジネスはますます好調。
理不尽な嫉妬だと自分でもわかっているが、彼を好きになれなかった。
「健太郎さん」と彼を呼ぶアオちゃんが遠く感じた。
初対面から軽薄だと思われたのは、石川藍子を連れていたせいだろう。
髪色も金髪ではなく、甘城のように黒髪だったらよかったかもしれない。
そう思ったら、藍子を帰らせて美容院で髪を黒く染めていた。
部屋に帰っても、アオちゃんのことばかり考えていた。
別にお付き合いしたいとまでは思っていないけれど、こんなに近くにいるなら仲良くしたい。
もう10年以上彼女を追いかけてきた。
自分でもストーカーみたいで気持ち悪いと思うけれど、アオちゃんの存在に励まされて生きてきた。
タバコが切れたので買いに行った帰りに、苦しそうにロビーで隠れるように座り込んでいる彼女を見つけた。
両親は医師で、父は総合病院の院長をしてる。
双子の弟がいるが、揃って小学校受験最高峰と言われる学校に受かった。
しかし、小学校2年生あたりから弟の優秀さが際立ってきた。
大学までエスカレーターであがれるが、うちの場合は医学部に入らなければ意味がない。
俺の頭では一握りしか入れない医学部は無理だと、小2にして両親に見限られた。
親は俺を見限っているので、勉強するようにとプレッシャーさえかけてもこなかった。
弟の存在があるから、俺は経済学部にでも入って病院の理事にでも名を連ねれば良いらしい。
つまり、一生弟のヒモでいろと宣告されたのだ。
そのような時、テレビで木嶋隆の特集をやっていた。
田舎から出てきて成功した男の物語だ。
「妻が中学生の時、家庭教師をした縁で結婚したんです。お互い初恋同士で」
そう語る木嶋に反吐が出た。
大学生が中学生に恋なんてするわけがない。
それが事実ならば、彼はロリコンだ。
彼の田舎での苦労話を、美談にしてるやり方も気持ち悪かった。
そして紹介された妻、木嶋翠も家柄しかない馬鹿女だった。
彼女の学歴が、明らかに金さえ積めば誰でも入れる私立女子校出身だ。
日本一の天才を家庭教師にすれば、バカが治るとでも親は思ったのだろう。
『ラブラブの木嶋夫婦は今日も一緒にオペラ鑑賞。娘を7ヶ国語を操る家庭教師に預けた』
テレビで流れたテロップと同時に、英才教育を施される木嶋アオちゃんが映し出された。
彼女は、天使のような可愛い女の子だった。
そして、彼女は泣きそうな苦しい顔で勉強をしていた。
俺はその親の期待に応えようと必死な表情に心を奪われた。
彼女は、両親が帰ってくると満面の笑顔で彼らを迎えていた。
それから俺は木嶋アオちゃんに夢中になった。
木嶋夫婦はアオちゃんをしょっちゅう素敵家族アピールに使っていたから、彼女の画像はたくさん拾えた。
アオちゃんを見てる時は、現実を忘れられた。
今日は本当に気持ちが落ち込んでいた。
経営する病院のすぐ裏にある実家には将来的に弟が住む。
両親は俺を追い出すように、節税目的で買ったマンションに追いやった。
「誕生日に車を買ってあげるけれど何が良い?」
半年ぶりの親からの電話だった。
もう、親はイベントの時しか俺に連絡さえしようとしない。
虚しさに打ちひしがられた時『フリーデリヘル藍子』を呼んでしまった。
石川藍子は大学からうちに入ってきた。
彼女が頭も股も緩いことは、内部生では有名な話だ。
彼女は内部生から『フリーデリヘル藍子』と呼ばれている。
呼べばいつでも急いで駆けつけて、やらせてくれるからだ。
彼女自身は自分が内部生に入り込めていて、モテていると勘違いしている痛い女だ。
自分でも情けない気持ちになりながら、マンションに戻ると画面や雑誌で追いかけ続けた木嶋アオちゃんがいた。
見かけた瞬間、胸の高まりが止まらなくなった。
俺は見た目が派手なせいか遊んでいると思われるが、実際は隠キャだ。
俺の一番の趣味はアオちゃんの情報を検索して収集することだ。
しかし、アオちゃんは俺を見るなり「2度と話しかけるな」と言った。
彼女に関連するものは全てチェックしてきた。
彼女はとても真面目な頑張り屋で、天然な可愛い子だと思っていた。
でも、実際は想像と違っていて思ったより気の強い攻撃的な子だった。
その上、俺が一番嫌いな男が彼女の「フィアンセ」だと言って現れた。
「甘城健太郎」は俺が一番嫌いな男だ。
地方出身だから、東京で一旗揚げれば地元に帰ればヒーローだろう。
小2で人生を積んだ俺から見れば、逃げ道のある彼の境遇が羨ましかった。
しかも、彼は塩顔ブームと良い人そうな顔で話題になった。
同じようなことをしている会社はあるのに、彼の会社がクローズアップされた。
時代の寵児のようになり、引っ越したマンションの最上階に住んでいると聞いた時にはムカついた。
ここに住んでいると、常に彼が上にいることを感じるからだ。
インタビューで彼が「お酒が苦手」とこたえれば、彼の過去を調べたファンが飲酒運転で家族を無くしたことをネットに流した。
同情票のようなものか、彼のビジネスはますます好調。
理不尽な嫉妬だと自分でもわかっているが、彼を好きになれなかった。
「健太郎さん」と彼を呼ぶアオちゃんが遠く感じた。
初対面から軽薄だと思われたのは、石川藍子を連れていたせいだろう。
髪色も金髪ではなく、甘城のように黒髪だったらよかったかもしれない。
そう思ったら、藍子を帰らせて美容院で髪を黒く染めていた。
部屋に帰っても、アオちゃんのことばかり考えていた。
別にお付き合いしたいとまでは思っていないけれど、こんなに近くにいるなら仲良くしたい。
もう10年以上彼女を追いかけてきた。
自分でもストーカーみたいで気持ち悪いと思うけれど、アオちゃんの存在に励まされて生きてきた。
タバコが切れたので買いに行った帰りに、苦しそうにロビーで隠れるように座り込んでいる彼女を見つけた。