22時に私は部屋に帰ってきた。
思わぬところで健太郎さんと出会えて、一緒に時間を過ごせて幸せだった。
それにしても、まだ両親が帰ってきていない。
両親が回帰前と同じように23時に帰宅するなら、大体のことは1年間同じように進むということだ。
つまり、20歳の私の誕生日に健太郎さんの住む40階から出火して、彼自身も死ぬ運命にある。
その日に私が彼と一緒にいられるようにすれば、彼を守れるかもしれない。
今、手元に彼の部屋の鍵があるから、今の友好的な関係を維持できれば彼を守れる確率は高くなる。
「ケーキでも食べますか」
私は、オーブンに入れっぱなしの舞ちゃんが作ってくれたケーキを食べた。
「美味しい。なんて、幸せな誕生日なんだろう」
ケーキを食べ終えたら、祖母の送ってくれた小麦粉をキッチンに収納しようと思った。
回帰前は祖母のお祝いの気持ちを捨ててしまった。
でも、今の私は祖母のプレゼントの小麦粉を大切に使いたいと思えている。
舞ちゃんのお陰で、私は祖母のお祝いの気持ちを受け取れた。
初めて日本の友達ができた19歳の誕生日。
20歳の誕生日には大切な健太郎さんを守りたい。
♢♢♢
「ただいま、やっぱり日本は仕事が忙しいわね。こんな時間まで待ってて疲れちゃった」
母と父が帰宅した。
時計を見ると23時になっている。
やはり、大体のことは回帰前と同じように進んでいるようだ。
「ママ、一番疲れたのは連絡もなく来た社長夫人の相手をさせられた会社の方々だから。会社に迎えに行くなんて、非常識だからやめた方が良いよ」
今、私は回帰前とは全く違う発言をしている。
「ママは、隆さんが大好きだから1分1秒でも一緒にいたいの」
母が父にしなだれかかるが、よく見ると父は随分と冷たい顔をしていた。
日本に戻ってきて初出勤の日に妻に非常識行動をされて、おそらく苛立っているのだろう。
「それから、鈴木美智子さんは今日でやめてもらったから。これから、私、自分で料理とか掃除をしようと思って」
鈴木美智子という名前を出しても、父の表情は全く変わらない。
1年後、父は彼女を抱きしめる予定なのだが、彼にとって彼女は重要な人物ではなさそうだ。
そうなると、父が鈴木さんにしたようなことを他でもやってそうで怖くなる。
父は他の女性にも失礼なことをして、隠し子を作っていたりするかもしれない。
「アオ、どうしちゃったの? 料理や掃除は、そういうのをお仕事にしている方がするものよ」
「本当は奥さんの仕事だと思うよ。じゃあ、ママの仕事は何?」
「翠ちゃんは、テーブルコーディネーターの仕事を頑張ってるじゃないか」
父が母を「翠ちゃん」と呼ぶのを、いつまでも2人は仲良しで微笑ましく思っていた。
でも、回帰前、鈴木さんのことも「美智子ちゃん」と父は呼んでいた。
「あれは、ママの虚栄心を満たすだけのもので、周りは付き合いや繋がりを求めてきているだけだよね。料理もしない人がテーブルコーディネーターだなんて滑稽だよ」
母のテーブルコーディネート教室は1回3万円と、他の類似教室に比べて高額だ。
それにもかかわらず、付き合い上誘われると断れない奥様や、有名な母と近づきたいという目的の奥様で盛況だったりする。
そして母は稼ぐことが目的で、教室をしていない。
金遣いが荒い母にとって3万円は小銭同然だ。
「アオは今日嫌なことでもあったのかな? せっかくのアオの誕生日なんだから、喧嘩をしないでケーキを食べようか」
父が良い「お父さん」の顔をして聞いてくるが、どういう心境なのだろう。
「嫌なことなんてないよ。でも、今日、私は色々な決断をしたよ。20歳になったら私はこの家を出るから。それから、木嶋グループは私が継ぐ」
今日は、舞ちゃんと友達になって健太郎さんと過ごせた素敵な日だ。
自分の目標に向かって、努力する眩しい2人に勇気をもらった。
そして、私は父によって苦労をしている腹違いの兄がいることを知った。
これ以上、父の好きにはさせない。
「何を言ってるの? アオは一生、私と隆さんと暮らすのよ。木嶋グループは隆さんが継ぐに決まってるでしょう」
母が一瞬で鬼のような形相になる。
地獄の日に見た忘れられないあの顔だ。
娘に一生一緒に暮らすように強いろうとする母は、私をペットの犬と同じように思っているのだろう。
「ママ、木嶋グループと私でパパを繋ぎ止めようとしても無駄だよ。今、パパがママを捨てても、会社を追い出されることはない。お爺ちゃまは、家族より会社が大切な人って分かっているでしょ。何にもできないお嬢様は選ばれるだけで、愛され続けることはないのよ」
「選ばれるのは結局何にもできないお嬢様」という言葉を聞いたことがある。
確かに母は父に選ばれている。
もっとも選ばれる方が、必ずしも幸せになれるとは限らない。
父は優秀な人材として、祖父に必要とされるだろう。
父は祖父に自分の能力を見せる機会として、母との結婚を利用したに過ぎない。
だから、父にとって束縛してきて面倒なだけの母はお役御免だ。
思わぬところで健太郎さんと出会えて、一緒に時間を過ごせて幸せだった。
それにしても、まだ両親が帰ってきていない。
両親が回帰前と同じように23時に帰宅するなら、大体のことは1年間同じように進むということだ。
つまり、20歳の私の誕生日に健太郎さんの住む40階から出火して、彼自身も死ぬ運命にある。
その日に私が彼と一緒にいられるようにすれば、彼を守れるかもしれない。
今、手元に彼の部屋の鍵があるから、今の友好的な関係を維持できれば彼を守れる確率は高くなる。
「ケーキでも食べますか」
私は、オーブンに入れっぱなしの舞ちゃんが作ってくれたケーキを食べた。
「美味しい。なんて、幸せな誕生日なんだろう」
ケーキを食べ終えたら、祖母の送ってくれた小麦粉をキッチンに収納しようと思った。
回帰前は祖母のお祝いの気持ちを捨ててしまった。
でも、今の私は祖母のプレゼントの小麦粉を大切に使いたいと思えている。
舞ちゃんのお陰で、私は祖母のお祝いの気持ちを受け取れた。
初めて日本の友達ができた19歳の誕生日。
20歳の誕生日には大切な健太郎さんを守りたい。
♢♢♢
「ただいま、やっぱり日本は仕事が忙しいわね。こんな時間まで待ってて疲れちゃった」
母と父が帰宅した。
時計を見ると23時になっている。
やはり、大体のことは回帰前と同じように進んでいるようだ。
「ママ、一番疲れたのは連絡もなく来た社長夫人の相手をさせられた会社の方々だから。会社に迎えに行くなんて、非常識だからやめた方が良いよ」
今、私は回帰前とは全く違う発言をしている。
「ママは、隆さんが大好きだから1分1秒でも一緒にいたいの」
母が父にしなだれかかるが、よく見ると父は随分と冷たい顔をしていた。
日本に戻ってきて初出勤の日に妻に非常識行動をされて、おそらく苛立っているのだろう。
「それから、鈴木美智子さんは今日でやめてもらったから。これから、私、自分で料理とか掃除をしようと思って」
鈴木美智子という名前を出しても、父の表情は全く変わらない。
1年後、父は彼女を抱きしめる予定なのだが、彼にとって彼女は重要な人物ではなさそうだ。
そうなると、父が鈴木さんにしたようなことを他でもやってそうで怖くなる。
父は他の女性にも失礼なことをして、隠し子を作っていたりするかもしれない。
「アオ、どうしちゃったの? 料理や掃除は、そういうのをお仕事にしている方がするものよ」
「本当は奥さんの仕事だと思うよ。じゃあ、ママの仕事は何?」
「翠ちゃんは、テーブルコーディネーターの仕事を頑張ってるじゃないか」
父が母を「翠ちゃん」と呼ぶのを、いつまでも2人は仲良しで微笑ましく思っていた。
でも、回帰前、鈴木さんのことも「美智子ちゃん」と父は呼んでいた。
「あれは、ママの虚栄心を満たすだけのもので、周りは付き合いや繋がりを求めてきているだけだよね。料理もしない人がテーブルコーディネーターだなんて滑稽だよ」
母のテーブルコーディネート教室は1回3万円と、他の類似教室に比べて高額だ。
それにもかかわらず、付き合い上誘われると断れない奥様や、有名な母と近づきたいという目的の奥様で盛況だったりする。
そして母は稼ぐことが目的で、教室をしていない。
金遣いが荒い母にとって3万円は小銭同然だ。
「アオは今日嫌なことでもあったのかな? せっかくのアオの誕生日なんだから、喧嘩をしないでケーキを食べようか」
父が良い「お父さん」の顔をして聞いてくるが、どういう心境なのだろう。
「嫌なことなんてないよ。でも、今日、私は色々な決断をしたよ。20歳になったら私はこの家を出るから。それから、木嶋グループは私が継ぐ」
今日は、舞ちゃんと友達になって健太郎さんと過ごせた素敵な日だ。
自分の目標に向かって、努力する眩しい2人に勇気をもらった。
そして、私は父によって苦労をしている腹違いの兄がいることを知った。
これ以上、父の好きにはさせない。
「何を言ってるの? アオは一生、私と隆さんと暮らすのよ。木嶋グループは隆さんが継ぐに決まってるでしょう」
母が一瞬で鬼のような形相になる。
地獄の日に見た忘れられないあの顔だ。
娘に一生一緒に暮らすように強いろうとする母は、私をペットの犬と同じように思っているのだろう。
「ママ、木嶋グループと私でパパを繋ぎ止めようとしても無駄だよ。今、パパがママを捨てても、会社を追い出されることはない。お爺ちゃまは、家族より会社が大切な人って分かっているでしょ。何にもできないお嬢様は選ばれるだけで、愛され続けることはないのよ」
「選ばれるのは結局何にもできないお嬢様」という言葉を聞いたことがある。
確かに母は父に選ばれている。
もっとも選ばれる方が、必ずしも幸せになれるとは限らない。
父は優秀な人材として、祖父に必要とされるだろう。
父は祖父に自分の能力を見せる機会として、母との結婚を利用したに過ぎない。
だから、父にとって束縛してきて面倒なだけの母はお役御免だ。