「給食で納豆が出るんですよ」
鈴木さんが楽しそうにご当地トークしているのは、舞ちゃんのお陰だろう。
納豆といえば、父の実家で朝食に出されな時に「こんなもの食べれない」と母が言っていた。
母な父のことが好きなようで、父の実家には寄り添おうとしていなかった。
「なんか音楽が鳴ってる。時報か何か? 今、17時見たいだけど舞ちゃん帰らなくて大丈夫?」
私は窓の外からうっすらと曲が聞こえる気がして時計を見た。
舞ちゃんは、片道3時間も家までかかると言っていたのを思い出した。
「もう帰らないと、終電なくなっちゃう。ケーキ良かったら、食べてね。不味かったら捨てても良いから」
オーブンを見ると、ケーキが焼き上がるにはあと8分程かかりそうだった。
舞ちゃんが慌てて立ち上がり、荷物をまとめている。
やはり時間的にギリギリだったようだ。
「全部食べるに決まっているよ。今日はありがとう。気をつけて帰ってね」
私が回帰前に廃棄ししてしまった祖母のお祝いの気持ちを、形にしてくれたのは舞ちゃんだ。
私は舞ちゃんの作ったケーキを大切に食べたいと思った。
舞ちゃんが去り、部屋に鈴木さんと2人きりになる。
回帰前と一緒なら、あと6時間は誰もこの部屋には来ない。
私は意を決して、鈴木さんに尋ねることにした。
「渡辺隆ですか?鈴木さんの息子さんの父親は」
「隆先輩はやはり有名人なのですね。茨城の神童ですから。ここだけの秘密ですよ。地元の人間にも本人にさえ、アオイの父親を尋ねられても秘密にしていたんです」
鈴木さんが2人きりなのにヒソヒソ声で話してくる。
彼女の息子のアオイさんは今28歳か29歳くらいだ。
今からでも父に責任を取らせることはできないのだろうか。
アオイさんが父親も知らされないと思うと胸が苦しくなった。
鈴木さんも明るくしているが、おそらく小さなコミュニティーで非難され苦しんだだろう。
「渡辺隆は、私の父です。今は、婿入りして木嶋隆になっています。鈴木さん、あなたはとても素敵な人です。父が母ではなくあなたの方に行ってしまいそうなので、もうここには来ないでください」
私は泣きそうになるのを我慢しながら嘘を吐いた。
鈴木さんが母より素敵のは本当だが、父は鈴木さんのところに行くこともないだろう。
父は、おそらく鈴木さんのことも好きではない。
父は母の束縛が面倒になって、一時的に鈴木さんを利用しようとしただけだ。
私が地獄の日に覚えているのは鬼の形相の母の表情ばかりだ。
でも、父の表情も少し覚えている。
鈴木さんのことを愛しているように言った時も感情のないような顔をしていた。
それは、母を愛していると言う時と同じような表情だった。
鈴木さんはどんな顔をしていたか思い出せない。
それ程に、母の鬼の形相のインパクトが強すぎた。
父は、鈴木さんを利用して母から逃げれたら、鈴木さんを再び捨てるだろう。
父のせいで苦しい思いをしただろう彼女に、もう同じ思いをさせたくはない。
「世界は、狭いですね。私が告白した時、隆先輩には彼女がいたんです。学校一美人の才女でした。私はそれを知りながら彼に告白しました。私は素敵な人間ではありません。私の方に隆先輩は来ませんよ」
「父は、その恋人もきっと東京にきてすぐに捨ててますよ。息子さんは父に認知もされず、鈴木さんは養育費も貰わずお一人で育てたのですよね。鈴木さんがお望みなら私は父に責任を取らせます。でも、母が父がいないと壊れてしまうんです。だから、もうここには来ないでください」
「アオさん、大丈夫ですよ。私も流石にもう隆先輩のことは何とも思ってないです。万が一、彼が私の方に来たいと言っても断るので安心してください」
私を安心させるよう、鈴木さんは私の右手を両手で包み込んでくる。
安心などできるわけがない。
なぜなら、彼女は息子に「アオイ」という名前をつけている。
私の名前の「アオ」は父が青色が好きだからだ。
この部屋も青を基調としてコーディネートされている。
父はハンカチもネクタイも何だって青を選んだ。
母は私が父の子だと自慢したいように「アオ」と言う名前をつけた。
鈴木さんだって、秘密にしていたと言いながら「アオイ」と子供に名付けている。
優秀な父が好きな色ばかりにこだわるのを、子供っぽくて可愛いと思っていた。
でも、今はそのこだわりが病的に感じてくる。
彼を愛した女たちまでも、その病気が感染しているように見えてくる。
「鈴木さん、私は料理も、掃除もできる人間になりたいと思っています。だから、鈴木さんは明日から来ないでください」
私は唇が震えるのを抑えながら、何とか言葉を紡いだ。
「分かりました。でも、アオさん本当に心配しないでください。今のアオさんの家族を害するつもりは全くありません。それに隆さんに責任を問うつもりもないです。アオイも父親が今更現れても戸惑うだけだと思います」
彼女が子供の話を出してきた時に、地獄の日に赤ん坊を抱いてた彼女の姿を思い出した。
彼女はきっと子供を大切にする人で、子供が戸惑うような真似はしないと信じることにした。
鈴木さんが楽しそうにご当地トークしているのは、舞ちゃんのお陰だろう。
納豆といえば、父の実家で朝食に出されな時に「こんなもの食べれない」と母が言っていた。
母な父のことが好きなようで、父の実家には寄り添おうとしていなかった。
「なんか音楽が鳴ってる。時報か何か? 今、17時見たいだけど舞ちゃん帰らなくて大丈夫?」
私は窓の外からうっすらと曲が聞こえる気がして時計を見た。
舞ちゃんは、片道3時間も家までかかると言っていたのを思い出した。
「もう帰らないと、終電なくなっちゃう。ケーキ良かったら、食べてね。不味かったら捨てても良いから」
オーブンを見ると、ケーキが焼き上がるにはあと8分程かかりそうだった。
舞ちゃんが慌てて立ち上がり、荷物をまとめている。
やはり時間的にギリギリだったようだ。
「全部食べるに決まっているよ。今日はありがとう。気をつけて帰ってね」
私が回帰前に廃棄ししてしまった祖母のお祝いの気持ちを、形にしてくれたのは舞ちゃんだ。
私は舞ちゃんの作ったケーキを大切に食べたいと思った。
舞ちゃんが去り、部屋に鈴木さんと2人きりになる。
回帰前と一緒なら、あと6時間は誰もこの部屋には来ない。
私は意を決して、鈴木さんに尋ねることにした。
「渡辺隆ですか?鈴木さんの息子さんの父親は」
「隆先輩はやはり有名人なのですね。茨城の神童ですから。ここだけの秘密ですよ。地元の人間にも本人にさえ、アオイの父親を尋ねられても秘密にしていたんです」
鈴木さんが2人きりなのにヒソヒソ声で話してくる。
彼女の息子のアオイさんは今28歳か29歳くらいだ。
今からでも父に責任を取らせることはできないのだろうか。
アオイさんが父親も知らされないと思うと胸が苦しくなった。
鈴木さんも明るくしているが、おそらく小さなコミュニティーで非難され苦しんだだろう。
「渡辺隆は、私の父です。今は、婿入りして木嶋隆になっています。鈴木さん、あなたはとても素敵な人です。父が母ではなくあなたの方に行ってしまいそうなので、もうここには来ないでください」
私は泣きそうになるのを我慢しながら嘘を吐いた。
鈴木さんが母より素敵のは本当だが、父は鈴木さんのところに行くこともないだろう。
父は、おそらく鈴木さんのことも好きではない。
父は母の束縛が面倒になって、一時的に鈴木さんを利用しようとしただけだ。
私が地獄の日に覚えているのは鬼の形相の母の表情ばかりだ。
でも、父の表情も少し覚えている。
鈴木さんのことを愛しているように言った時も感情のないような顔をしていた。
それは、母を愛していると言う時と同じような表情だった。
鈴木さんはどんな顔をしていたか思い出せない。
それ程に、母の鬼の形相のインパクトが強すぎた。
父は、鈴木さんを利用して母から逃げれたら、鈴木さんを再び捨てるだろう。
父のせいで苦しい思いをしただろう彼女に、もう同じ思いをさせたくはない。
「世界は、狭いですね。私が告白した時、隆先輩には彼女がいたんです。学校一美人の才女でした。私はそれを知りながら彼に告白しました。私は素敵な人間ではありません。私の方に隆先輩は来ませんよ」
「父は、その恋人もきっと東京にきてすぐに捨ててますよ。息子さんは父に認知もされず、鈴木さんは養育費も貰わずお一人で育てたのですよね。鈴木さんがお望みなら私は父に責任を取らせます。でも、母が父がいないと壊れてしまうんです。だから、もうここには来ないでください」
「アオさん、大丈夫ですよ。私も流石にもう隆先輩のことは何とも思ってないです。万が一、彼が私の方に来たいと言っても断るので安心してください」
私を安心させるよう、鈴木さんは私の右手を両手で包み込んでくる。
安心などできるわけがない。
なぜなら、彼女は息子に「アオイ」という名前をつけている。
私の名前の「アオ」は父が青色が好きだからだ。
この部屋も青を基調としてコーディネートされている。
父はハンカチもネクタイも何だって青を選んだ。
母は私が父の子だと自慢したいように「アオ」と言う名前をつけた。
鈴木さんだって、秘密にしていたと言いながら「アオイ」と子供に名付けている。
優秀な父が好きな色ばかりにこだわるのを、子供っぽくて可愛いと思っていた。
でも、今はそのこだわりが病的に感じてくる。
彼を愛した女たちまでも、その病気が感染しているように見えてくる。
「鈴木さん、私は料理も、掃除もできる人間になりたいと思っています。だから、鈴木さんは明日から来ないでください」
私は唇が震えるのを抑えながら、何とか言葉を紡いだ。
「分かりました。でも、アオさん本当に心配しないでください。今のアオさんの家族を害するつもりは全くありません。それに隆さんに責任を問うつもりもないです。アオイも父親が今更現れても戸惑うだけだと思います」
彼女が子供の話を出してきた時に、地獄の日に赤ん坊を抱いてた彼女の姿を思い出した。
彼女はきっと子供を大切にする人で、子供が戸惑うような真似はしないと信じることにした。