「ママ、私が家にいるからエステに行ってきたら?」
鈴木さんが家の合鍵を持つまで信用されるのは半年後だ。
私はなんとなく私の誕生日に祝福の言葉さえ言ってくれない母と、一緒にいたくなくなった。
父とも一緒に生活したくない、母とも一緒にいたくないと言う心境になっている。
「本当に? じゃあ、甘えさせてもらうわ。行ってきます」
待ってましたとばかりに、母は家を出て行った。
綺麗になって父に会うのが楽しみなのだろう。
日本に帰ってきて、父は木嶋グループ傘下の会社の社長に就任した。
祖父はゆくゆくは父に跡を継がせるつもりなのようだ。
社長夫人の母が会社にきたら、社員は相手をしなければならなくて迷惑だろう。
でも、この母の異常とも言える行動は、父を束縛したいが為のものだったと今ならわかる。
「舞ちゃん、フランスにいた時の写真とか見せるね」
私はパソコンを出して、自分の書いているブログを開いた。
私は仲良くなった人への近況報告として、ブログを頻繁に更新していた。
ちなみに皆が理解できるよう、世界の共通言語英語で書いている。
回帰前はこのブログが日本語で荒らされるトラブルがあった。
私は回帰した今では、犯人は藍子だったのではないかと睨んでいる。
また、彼女が同じことをやらかしたら私は彼女に視界から消えてもらう予定だ。
「アオちゃん、すごいマメなんだね。尊敬する」
フランス生活について書いたところを、興味深そうに見ながら舞ちゃんが褒めてくれた。
「私のほうこそ舞ちゃんを尊敬しているんだよ。夢を持っていて、それに向かって頑張っているなんて本当に素敵だよ」
「ありがとう。こんなに応援してもらったら、絶対、夢を叶えたくなってきたよ。来年にはフランスに行くぞ」
舞ちゃんが拳を突き上げながら宣言するのを見て、やる気が出そうな仕草だなと思った。
ピンポーン。
インターホンが鳴ったので、私が出ると鈴木さんの顔がそこにあった。
「今、開けます」
下のエントランスを通過して、エレベーターを上がって部屋に来るまでは3分は掛かるだろう。
私は、回帰前の最後の日以来、鈴木さんと会うので緊張していた。
両親のことを考えたら、彼女が家政婦として働くのを今日断ってしまった方が良い。
もう、7分くらいは経っている。
タワーマンションはエレベーターがなかなか来なかったりするから、それが理由だろう。
私は1年間生活して慣れていたが、今はその数分が恐ろしく長く感じる。
ピンポーン。
「はい、今、開けまーす」
私は扉の前までいって、一呼吸してから扉を開けた。
「アオさんですよね。お誕生日おめでとうございます。今日から家政婦としてお世話になる鈴木美智子と申します」
扉を開けるなり、笑顔で挨拶してくる鈴木さんを見て私は地獄の日のことを思い出した。
緊急時で色々な人間の嫌な部分を突きつけられたようなあの日。
一番美しかったのは鈴木さんだった。
自分の子まで非常階段の踊り場に置き捨てる親がいるなか、彼女は見知らぬ赤ちゃんを抱いて30階もの階段を降りた。
彼女は階段を降りてからも、必死に赤ちゃんの親を探していた。
周りの人間は取り乱している母を見て、「人の不幸は蜜の味」とばかりにカメラを向けていた。
私が最後に見た母は、赤ちゃんを抱えた鈴木さんにアイスピックで襲いかかろうとした母だ。
「ありがとうございます。どうぞ、入ってください」
母も言ってくれなかった「お誕生日おめでとう」を鈴木さんが言ってくれたからだろうか。
私は鈴木さんのことは、やはり嫌いになれない気がした。
「お邪魔しています。アオちゃんの友達の川田舞と申します。もしかして、鈴木さんも栃木出身だったりします? 違ってたらすみません。同郷の人だったら、嬉しいなと思ってしまって」
鈴木さんは確かに特有の訛りのある話し方をする。
舞ちゃんの東京弁は完璧だから、彼女がはるばる栃木から来たとは私は思っていなかった。
「栃木の方なんですか? 私、訛りすごいですよね。私は茨城出身なんです」
鈴木さんの出身は私を驚かせるものだった。
父は茨城の神童と呼ばれ、日本のトップの某大学に首席入学している。
その父の優秀さに目をつけて、祖父が当時中学生の母の家庭教師にしたのだ。
父と鈴木さんは2歳差だ。
2人は元から知り合いだった可能性はないだろうか。
「お隣の県なんですね。なんだか東京に出てきて頑張っている同士と出会えたようで嬉しいです」
私が呆然としていると、舞ちゃんが嬉しそうに鈴木さんと会話をしている。
図書館で借りた映画に埼玉県民が周囲の県に喧嘩腰の映画があったが、栃木と茨城は仲が良いらしい。
ピンポーン。
その時、再びインターホンが鳴った。
鈴木さんが家の合鍵を持つまで信用されるのは半年後だ。
私はなんとなく私の誕生日に祝福の言葉さえ言ってくれない母と、一緒にいたくなくなった。
父とも一緒に生活したくない、母とも一緒にいたくないと言う心境になっている。
「本当に? じゃあ、甘えさせてもらうわ。行ってきます」
待ってましたとばかりに、母は家を出て行った。
綺麗になって父に会うのが楽しみなのだろう。
日本に帰ってきて、父は木嶋グループ傘下の会社の社長に就任した。
祖父はゆくゆくは父に跡を継がせるつもりなのようだ。
社長夫人の母が会社にきたら、社員は相手をしなければならなくて迷惑だろう。
でも、この母の異常とも言える行動は、父を束縛したいが為のものだったと今ならわかる。
「舞ちゃん、フランスにいた時の写真とか見せるね」
私はパソコンを出して、自分の書いているブログを開いた。
私は仲良くなった人への近況報告として、ブログを頻繁に更新していた。
ちなみに皆が理解できるよう、世界の共通言語英語で書いている。
回帰前はこのブログが日本語で荒らされるトラブルがあった。
私は回帰した今では、犯人は藍子だったのではないかと睨んでいる。
また、彼女が同じことをやらかしたら私は彼女に視界から消えてもらう予定だ。
「アオちゃん、すごいマメなんだね。尊敬する」
フランス生活について書いたところを、興味深そうに見ながら舞ちゃんが褒めてくれた。
「私のほうこそ舞ちゃんを尊敬しているんだよ。夢を持っていて、それに向かって頑張っているなんて本当に素敵だよ」
「ありがとう。こんなに応援してもらったら、絶対、夢を叶えたくなってきたよ。来年にはフランスに行くぞ」
舞ちゃんが拳を突き上げながら宣言するのを見て、やる気が出そうな仕草だなと思った。
ピンポーン。
インターホンが鳴ったので、私が出ると鈴木さんの顔がそこにあった。
「今、開けます」
下のエントランスを通過して、エレベーターを上がって部屋に来るまでは3分は掛かるだろう。
私は、回帰前の最後の日以来、鈴木さんと会うので緊張していた。
両親のことを考えたら、彼女が家政婦として働くのを今日断ってしまった方が良い。
もう、7分くらいは経っている。
タワーマンションはエレベーターがなかなか来なかったりするから、それが理由だろう。
私は1年間生活して慣れていたが、今はその数分が恐ろしく長く感じる。
ピンポーン。
「はい、今、開けまーす」
私は扉の前までいって、一呼吸してから扉を開けた。
「アオさんですよね。お誕生日おめでとうございます。今日から家政婦としてお世話になる鈴木美智子と申します」
扉を開けるなり、笑顔で挨拶してくる鈴木さんを見て私は地獄の日のことを思い出した。
緊急時で色々な人間の嫌な部分を突きつけられたようなあの日。
一番美しかったのは鈴木さんだった。
自分の子まで非常階段の踊り場に置き捨てる親がいるなか、彼女は見知らぬ赤ちゃんを抱いて30階もの階段を降りた。
彼女は階段を降りてからも、必死に赤ちゃんの親を探していた。
周りの人間は取り乱している母を見て、「人の不幸は蜜の味」とばかりにカメラを向けていた。
私が最後に見た母は、赤ちゃんを抱えた鈴木さんにアイスピックで襲いかかろうとした母だ。
「ありがとうございます。どうぞ、入ってください」
母も言ってくれなかった「お誕生日おめでとう」を鈴木さんが言ってくれたからだろうか。
私は鈴木さんのことは、やはり嫌いになれない気がした。
「お邪魔しています。アオちゃんの友達の川田舞と申します。もしかして、鈴木さんも栃木出身だったりします? 違ってたらすみません。同郷の人だったら、嬉しいなと思ってしまって」
鈴木さんは確かに特有の訛りのある話し方をする。
舞ちゃんの東京弁は完璧だから、彼女がはるばる栃木から来たとは私は思っていなかった。
「栃木の方なんですか? 私、訛りすごいですよね。私は茨城出身なんです」
鈴木さんの出身は私を驚かせるものだった。
父は茨城の神童と呼ばれ、日本のトップの某大学に首席入学している。
その父の優秀さに目をつけて、祖父が当時中学生の母の家庭教師にしたのだ。
父と鈴木さんは2歳差だ。
2人は元から知り合いだった可能性はないだろうか。
「お隣の県なんですね。なんだか東京に出てきて頑張っている同士と出会えたようで嬉しいです」
私が呆然としていると、舞ちゃんが嬉しそうに鈴木さんと会話をしている。
図書館で借りた映画に埼玉県民が周囲の県に喧嘩腰の映画があったが、栃木と茨城は仲が良いらしい。
ピンポーン。
その時、再びインターホンが鳴った。