私と舞ちゃんはあっという間に仲良くなった。
そして、敬語はよそよそしいということでタメ口で話すようになった。
「アオちゃん、大学に徒歩通学なの? 羨ましすぎる」
フランスで生活していた時の写真があるから見せたいと舞ちゃんに伝えて、彼女を家まで案内した。
「舞ちゃんのお家はどこなの?」
「栃木だよ。片道3時間かけて大学まで通っているの。一人暮らしがしたかったんだけれど、東京で女の子の一人暮らしは危ないって親が許してくれなくて」
東京はとても安全に見えるが、栃木はもっと良質で安全なところなのだろう。
私は外を出歩くのも危ない街にも住んでいた事もあるから、東京は綺麗で素敵な街だと思っている。
私が怖かったのは、街ではなく、そこに住む日本人だった。
「往復6時間は大変だね。知り合いの男の人とか、東京にいない? 一緒に住んでもらうとかはどお?」
彼女はあと半年もすれば、交換留学生に選ばれてフランスに行く。
家が今まともな状態なら彼女に一部屋貸してあげたかったが、「離婚して」と私が言ってから家の空気がおかしくなっている。
「男の人と住むなんて、親はもっと反対するよ。アオちゃん面白いね」
「私、面白いのかな。そうだ、フランスの大学の近くのオススメのお店も教えられるし、フランス在住の日本人の知り合いも紹介するね。面倒見がとても良い人だから、困った時はいつでも相談すると良いよ」
新しい土地に行った時に、オススメの店や信頼できる知り合いを知っていると暮らしが全然違う。
特に知り合いに関しては、同じ日本人だからと言って安易に仲良くするのは危ない。
海外においては、同じ日本人だと安心させることで騙してこようとする場合もある。
面倒なのは、同じ日本人の仲間として異常に執着されてしまうケースだ。
でも、舞ちゃんは日本から出るのが始めてのようだから、たぶん日本人が恋しくなる。
執着系の方にひっかかってしまうと、せっかくの1年間の留学の期間が台無しになってしまう。
交換留学制度はフランスの姉妹校の単位を、日本の大学で認めるという制度だ。
フランスの大学の単位の取得は、日本の大学のように容易ではない。
勉強に集中できる環境を作り、現地の人とできるだけ関わった方がよいだろう。
だから、最初から安心で安全な知り合いを紹介しておこうと思った。
「まだ、交換留学生に選ばれるか分からないのに大丈夫かな?」
確かに学年で1人しか選ばれないのだから、彼女が心配するのはもっともだ。
しかし、彼女が選ばれることを私は知っている。
「私が舞ちゃんに友達とオススメのお店を紹介したいだけだよ。友達のご紹介ってやつだよ。重く考えないで」
「ありがとう。本当は色々教えてもらえるの、すごく嬉しい」
彼女がにっこり笑って私も嬉しくなった。
このような素敵な子がクラスにいたのに、前回、下心しかない藍子に引っかかったとは自分でも残念だ。
「アオ、お友達を連れてきたのね?」
私は扉を開けるなり、母が家にいて驚いてしまった。
「川田舞と申します。アオさんと仲良くさせて頂いております」
頭を下げる舞ちゃんをみながら、私は前回のこの日のことを思い出していた。
「今ね、家政婦さんにアオの誕生日ケーキを取りに行ってもらっているのよ。早く帰って来ないかしら、エステの予約に間に合わないわ」
母の言葉に私は記憶が一瞬で蘇った。
前回、この日は帰宅したら家に鈴木さんがいたのだ。
私は知らない人が家にいることに驚いてしまったので覚えている。
「アオちゃん、誕生日なの? おめでとう。アオちゃんのこれからの1年が素敵なものになるようにお祈りするね」
「ありがとう。舞ちゃん」
私は舞ちゃんの言葉に気がついてしまった。
私は今日、母から誕生日のお祝いの言葉を貰っていない。
この後、母はエステに行って、その足で父の会社に父を迎えに行く。
父の仕事が終わるまで、会社で待つという行動をとるのだ。
父は仕事が忙しく、2人が帰ってきたのは夜の23時だった。
鈴木さんは誕生日に一人になっている私を哀れに思い、その時間まで一緒にいてくれた。
母にとって私の誕生日は父との仲を深めるイベントの1つで、私はおまけだ。
彼女が私自身の誕生を祝ったことが一度でもあっただろうか。
回帰してきてやっと、私は自分の母の異常さに気づき始めていた。
「アオ、家政婦の鈴木さんが、誕生日なのに和食を作ったのよ。しかも、豆腐を手の上で切っていたの。手を切ってしまうかと思ってドキドキしたわ。あの人で大丈夫なのかしら」
母はテーブルコーディネーターとして有名なのに料理をしたことはない。
彼女は、結婚するまでは日本で暮らして来たから家庭科の調理実習の授業も受けている。
しかし、その時もお皿を並べることしかしていなかったらしい。
「海外から帰って来たばかりだから、気を遣って和食にしてくれたんだよ」
鈴木さんの料理は丁寧に下ごしらえがしてある上に、素材の味が活かしてあり美味しかった。
彼女はとても優しい人で、私も心を許していた。
「アオちゃんのお母様安心してください。私も手の上で豆腐を切りますよ」
舞ちゃんもすかさずフォローしてくれて、彼女の気遣いに感動した。
そして、敬語はよそよそしいということでタメ口で話すようになった。
「アオちゃん、大学に徒歩通学なの? 羨ましすぎる」
フランスで生活していた時の写真があるから見せたいと舞ちゃんに伝えて、彼女を家まで案内した。
「舞ちゃんのお家はどこなの?」
「栃木だよ。片道3時間かけて大学まで通っているの。一人暮らしがしたかったんだけれど、東京で女の子の一人暮らしは危ないって親が許してくれなくて」
東京はとても安全に見えるが、栃木はもっと良質で安全なところなのだろう。
私は外を出歩くのも危ない街にも住んでいた事もあるから、東京は綺麗で素敵な街だと思っている。
私が怖かったのは、街ではなく、そこに住む日本人だった。
「往復6時間は大変だね。知り合いの男の人とか、東京にいない? 一緒に住んでもらうとかはどお?」
彼女はあと半年もすれば、交換留学生に選ばれてフランスに行く。
家が今まともな状態なら彼女に一部屋貸してあげたかったが、「離婚して」と私が言ってから家の空気がおかしくなっている。
「男の人と住むなんて、親はもっと反対するよ。アオちゃん面白いね」
「私、面白いのかな。そうだ、フランスの大学の近くのオススメのお店も教えられるし、フランス在住の日本人の知り合いも紹介するね。面倒見がとても良い人だから、困った時はいつでも相談すると良いよ」
新しい土地に行った時に、オススメの店や信頼できる知り合いを知っていると暮らしが全然違う。
特に知り合いに関しては、同じ日本人だからと言って安易に仲良くするのは危ない。
海外においては、同じ日本人だと安心させることで騙してこようとする場合もある。
面倒なのは、同じ日本人の仲間として異常に執着されてしまうケースだ。
でも、舞ちゃんは日本から出るのが始めてのようだから、たぶん日本人が恋しくなる。
執着系の方にひっかかってしまうと、せっかくの1年間の留学の期間が台無しになってしまう。
交換留学制度はフランスの姉妹校の単位を、日本の大学で認めるという制度だ。
フランスの大学の単位の取得は、日本の大学のように容易ではない。
勉強に集中できる環境を作り、現地の人とできるだけ関わった方がよいだろう。
だから、最初から安心で安全な知り合いを紹介しておこうと思った。
「まだ、交換留学生に選ばれるか分からないのに大丈夫かな?」
確かに学年で1人しか選ばれないのだから、彼女が心配するのはもっともだ。
しかし、彼女が選ばれることを私は知っている。
「私が舞ちゃんに友達とオススメのお店を紹介したいだけだよ。友達のご紹介ってやつだよ。重く考えないで」
「ありがとう。本当は色々教えてもらえるの、すごく嬉しい」
彼女がにっこり笑って私も嬉しくなった。
このような素敵な子がクラスにいたのに、前回、下心しかない藍子に引っかかったとは自分でも残念だ。
「アオ、お友達を連れてきたのね?」
私は扉を開けるなり、母が家にいて驚いてしまった。
「川田舞と申します。アオさんと仲良くさせて頂いております」
頭を下げる舞ちゃんをみながら、私は前回のこの日のことを思い出していた。
「今ね、家政婦さんにアオの誕生日ケーキを取りに行ってもらっているのよ。早く帰って来ないかしら、エステの予約に間に合わないわ」
母の言葉に私は記憶が一瞬で蘇った。
前回、この日は帰宅したら家に鈴木さんがいたのだ。
私は知らない人が家にいることに驚いてしまったので覚えている。
「アオちゃん、誕生日なの? おめでとう。アオちゃんのこれからの1年が素敵なものになるようにお祈りするね」
「ありがとう。舞ちゃん」
私は舞ちゃんの言葉に気がついてしまった。
私は今日、母から誕生日のお祝いの言葉を貰っていない。
この後、母はエステに行って、その足で父の会社に父を迎えに行く。
父の仕事が終わるまで、会社で待つという行動をとるのだ。
父は仕事が忙しく、2人が帰ってきたのは夜の23時だった。
鈴木さんは誕生日に一人になっている私を哀れに思い、その時間まで一緒にいてくれた。
母にとって私の誕生日は父との仲を深めるイベントの1つで、私はおまけだ。
彼女が私自身の誕生を祝ったことが一度でもあっただろうか。
回帰してきてやっと、私は自分の母の異常さに気づき始めていた。
「アオ、家政婦の鈴木さんが、誕生日なのに和食を作ったのよ。しかも、豆腐を手の上で切っていたの。手を切ってしまうかと思ってドキドキしたわ。あの人で大丈夫なのかしら」
母はテーブルコーディネーターとして有名なのに料理をしたことはない。
彼女は、結婚するまでは日本で暮らして来たから家庭科の調理実習の授業も受けている。
しかし、その時もお皿を並べることしかしていなかったらしい。
「海外から帰って来たばかりだから、気を遣って和食にしてくれたんだよ」
鈴木さんの料理は丁寧に下ごしらえがしてある上に、素材の味が活かしてあり美味しかった。
彼女はとても優しい人で、私も心を許していた。
「アオちゃんのお母様安心してください。私も手の上で豆腐を切りますよ」
舞ちゃんもすかさずフォローしてくれて、彼女の気遣いに感動した。