案内された通りに、道を進んでいく。木々が風に吹かれて揺れる。アスファルトばかりの先ほどの道より、幾分か涼しく感じられた。

 すれ違う人たちは、皆、兄と同じように大人のような顔している。北大の学生なんだろうか。

 インフォメーションセンターで案内を貰って、読み込む。あまりに広大な土地に、少し眩暈がした。

「教育学部はこっちだって!」
「おう」

 前々から予約していれば、講義も受けられたらしい。でも、メグルと出会った時には全て埋まっていたから、大学構内の見学だけになってしまった。元々来る予定もなかったけど。

 メグルは興味津々と言ったように、建物を見上げては「すごー」と感嘆のため息をこぼす。憧れに似たような瞳で、キョロキョロと周りを見回していた。

「大学行けばいいのに」
「行けたらいいのにね」
「えっ」
「みんながみんな、行けるとは、限らないよ」

 急に早足になって、俺の右手を引っ張る。木々の間をタッタッタと走る姿は、あの時の黒猫と重なった。無神経なことを言ってしまったかもしれない。

 学費の問題とか、どうしても進学を選べない理由が、メグルにはあったのか。勝手に想像して、無神経なことを言った自分を恨む。

 それでも、メグルは気にしていないようで、すれ違う人、すれ違う人を嬉しそうに見つめた。

「この木々、秋になったら真っ黄色に染まるんだよ」
「有名だもんな、銀杏並木」
「ねー! 見てみたいなぁ」
「一緒に来る?」

 提案がするりと口から、勝手に流れていく。自分で驚きながらも訂正しようとすれば、メグルは小さく「ごめんね」と呟いた。

 メグルが時々、思い悩むような表情をする理由は、どうしてなんだろうか。たった数回あった友人程度。それなのに、俺は気になってしょうがなかった。

 *

 大学の学食でもご飯を食べられるということだったが、なんとなく居づらくて出てきてしまった。メグルが北十三条の方を指さして提案する。

「スープカレー食べに行かない?」

 生まれてからずっと北海道に住んでるのに、スープカレーを食べたことがなかった。サラサラのカレーなことだけは、知ってる。

「う、うん」

 頷けば、メグルはまた俺の手を繋いだまま、走り出す。急に走り出すことの多いメグルにも、慣れてきた。でも、なんだか生き急いでるみたいで、不安になってしまう。多動性があるのかもしれないけど、それだけじゃないような。焦ってるような……、わからないけど。

 隣の道路を、車が通っていくのを追いかけながら、メグルは足を止めずぐんぐん進んでいく。お目当てのお店があるらしいと察して、俺も何も言わずに後ろをついて行った。