「友だちとかとシェアする時、よくするからやっちゃった。はい」

 新しいフォークを手に取って、もう一切れに突き刺す。そして、そのホットケーキを俺の口に近づけた。

 あーんをすることは、やめないらしい。同じフォークじゃなくなった、だけ良いのかもしれない。意を決して口にすれば、ふわりとした生地を感じる。メイプルシロップの甘さと、バターのしょっぱさが絶妙でおいしい。

「おいしいでしょ、お気に入りなんだ」

 俺にあーんしたフォークをお皿の上に置いてから、先ほどのフォークでホットケーキを口に運ぶ。もぐもぐとしたかと思えば、目を蕩けさせて微笑んだ。

「やっぱりおいしい〜!」

 ホットケーキを貰ってしまったからには、俺のパフェも一口あげるべきだと思う。それが、平等だ。スッとガラスの器をメグルの方へ差し出した。メグルは、一瞬戸惑ってからあーんっと口を開ける。

 俺にも、あーんをしろということだろうか。ぱちぱちと瞬きをして、口を開けたままの姿は、まるで雛鳥みたいだ。

 しょうがなく新しいスプーンを取り出して、メグルの口元に運ぶ。唇の横にチョコレートソースをつけて「おいしいね!」と、メグルは嬉しそうな顔をした。

 洗い物を増やしてしまったことに、申し訳なさが募る。俺の微かな表情から読み取ったのか、メグルは「お仕事だからいいんだよ」と小さく口にした。

 二人とも全て平らげて、「ごちそうさまでした」と挨拶を交わした。溶けかけた氷の浮いた水を飲み込みながら、メグルの次の行動を観察する。

 このままお別れは、ちょっとだけ残念だ。

「ね、連絡先交換しよ! SNSやってる?」

 カバンのポケットから、メグルはスマホを取り出して俺に見せつけた。チラリと見えた、ホーム画面はみたらし色のがくつろいでる写真。

 猫好きだから、先ほどの猫も見逃せなかったのか。勝手に、腑に落ちて、うんうんと頷く。連絡先の交換を承諾したのだと取られて、SNSの画面を開き始めた。

 連絡先は、確かに交換したかったけど。

 俺もカバンからスマホを取り出して、IDを表示する。メグルは慣れているようで、両手の親指でタッタッタと素早く打ち込む。

 ぶるっと震えたスマホを確認すれば、猫の「よろしくにゃあ」と描かれたスタンプが届いていた。

「よろしく」
「で、ね?」

 交換したからお別れかと、思えば、メグルは俺の前に指を三本立てる。指越しのメグルの瞳は、キラキラと輝いてる気がした。

「夏休み入ったでしょ? サトルが嫌じゃなかったら、出かけるの付き合ってほしいな」

 メグルのお願いに、悩んでしまう。窓の外に目を向ければ、変わらず人が行き交っていた。仲の良さそうな男女の高校生。中学生くらいの男の子たちは、走り去って行く。

 夏休み中に、約束があるわけじゃない。

 それでも、誰かと楽しみな約束をすること自体、俺にはしちゃいけないような気がしていた。
 だから、素直に頷けない。
 それでも、メグルは両手を合わせて「お願いお願い」と言葉にしている。