預けていた荷物を受け取って、恋人繋ぎでビルを出る。ずっと手を握ってきたのに、握り方が変わっただけで俺たちはきごちなくなっていた。手と足が両方同時に出そうになるし、うまく会話も続かない。
それでも、そんな初々しいやりとりが、愛しくて、胸が詰まる。
「次はどこ行こっか」
「メグルはどんなとこが好き? 動物園とか?」
「うん、好き。あとは、水族館とか」
「小樽に泊まりがけで行く?」
急な提案かも、と思ったけど。早る気持ちが勝手に言葉を、出していた。メグルはピタッと止まって、驚いた顔をする。目がまんまるに開かれているし、ちょっと、猫の威嚇みたいで可愛い。
「泊まりって、それは、絶対ダメでしょ」
「絶対ダメ?」
「私はダメじゃないけど……サトルが許されないでしょ」
メグルの言葉に、一瞬考えてみる。友だちの家に行くといえば……「友だちなんか居たの?」と言われる気もする。
「兄ちゃんに相談してみる」
「うん」
素直に頷くから、きっと、嫌だったわけではないと思う。それに、今まで泊まりでのデートはしたことなかったのか。メグルの反応でわかってしまった。
夏の夕方とはいえ、吹く風は生ぬるい。繋いだ手の間から、汗が伝うような気がして、緊張してしまう。気持ち悪いと思われたらどうしよう。今更な不安を抱えながら、多くの人たちとすれ違う。夜の色が近づく大通駅は、さまざまな人たちが入り混じっていた。
仕事終わりの社会人。夏休み中のような、中学生。フライドチキンの匂いをさせてる家族。幸せの真ん中に立ってるみたいな気がして、俺らは恋人に見えてんのかな、なんて想像をする。お似合いだったらいい。誰かの記憶に、幸せそうな恋人として残ればいい。
俺以外にも、メグルを微かにでも覚えてる人がいれば、きっと、寂しくないから。
地下鉄の改札前で、メグルは俺の手をスッと離した。俺は、驚き戸惑って、手が宙を切る。
「今日はここでお別れ」
「もう会えないとかないよな」
不安が、胃の奥からぞわぞわと背中を走っていく。もう会えないと、会える時間が短くなった、と言われたらどうしよう。俺が微かに覚えていたから。そんな、変化が、嫌な方に動いてしまったら。一人で悪い想像ばかりして、冷や汗が吹き出る。
メグルは百面相する俺の頬を、ツンッと人差し指で突いた。その手を掴んで抱き寄せれば、小さいメグルはすっぽりと腕の中に収まる。
「まるで、バカップルみたいじゃん」
嫌そうな言い方のくせに、ちょっと声がうわずってる。抱きしめたメグルの感触に、存在してることに、涙が出そうだった。
「これで終わりなわけないでしょ! 次の約束だってしてるんだから!」
「それもそっか」
「でも、今日はここでバイバイ。次の約束はメッセージ送ってよ」
「もちろん」
パッと離れれば、メグルは改札の前でずっと俺を見送る。改札を通り抜けて、何回も、何回もメグルを振り返る。一瞬、一秒、いつまでも、目に焼き付けながら。