下書きに残されていたデートを、数回繰り返してしまった。俺はもう会わないって、決めていたはずなのに……

 メッセージでやりとりするたびに、断りきれず何度もメグルに会う。

 下書きのことをメグルに確かめられないまま、夏休みはもう一週間過ぎ去っていた。メグルに会うたびに胸の中のモヤは広がって、俺ってこのままで本当にいいのかなと思ってしまう。

 下書きの画像を描いた自分を羨んで、それでも、兄のようにならなければという劣等感に苛まれて、自己嫌悪は増すばかりだった。

 夏期講習のない日は、メグルと会ってどこかへ出かける。そんなルーチンになりつつある夏休み。今日も、メグルとの待ち合わせ場所について、一人自己嫌悪に苛まれる。ぼやっと地下鉄の電光掲示板を眺めていれば、後ろから肩を叩かれた。

「よっ!」
「おはよう」
「今日は、まず駄菓子を買います!」

 メグルが当たり前のように、手を差し出す。握り返せば、ゆっくりと歩み始めた。下書きには、メグルはいつも生き急ぐように走ってたと書かれていたけど。俺の前では、あまり走らない。

 共通点もあるのに、違うところもある。あの下書きは、ますます俺の心を乱すばかりだ。

「五百円玉用意してきた?」
「おう」
「予算だからね! ちゃんと計算してやるぞー」

 地下鉄駅の高架下を通り抜けて、少し曲がった道を進む。横を車がビュンビュンと音を立てながら、通り過ぎていった。変わらず夏の太陽は、突き刺さるように肌を焼いていく。

「サトルは、どんなお菓子買うのかなぁ」
「それは読めないの?」

 心が読めるというのは、本当だと確信した。だから、意外な気がして、繋いだ手の先を見つめる。メグルは、ふふっと笑って、振り返った。

「わからないこともあるよ。駄菓子屋さんに行くの、初めてだもん」
「えっ?」
「いつもは、こんなに会ってくれないから」

 いつもは、というのは、いつの俺の話なんだろう。少しずつ、メグルに対する予想が、膨らんでいく。タイムループ。きっと、それがメグルが何十年来の友だちだと俺に言った理由だと思う。

 でも、非科学的すぎて、すぐには、信じられそうにない。それに、メグルにはっきり確かめたわけじゃない。確かめたところで、信じられるかは、別だけど。

「はい、到着!」

 体感的には、五分くらいだろうか。看板にデカデカと書かれた駄菓子という文字を見上げる。中は、昔ながらの駄菓子屋といった感じで、見知ったお菓子が所狭しと並んでいた。

「じゃあ……」

 メグルが、パッと手を放す。あっと、声を出す間もなく、メグルはワクワクとした表情で店内を一望した。

「選んだら、外集合! 一旦解散!」

 わざとらしい言い方に、はいはいとあいづちを打ってから店内を見渡す。甘いものとしょっぱいもの、半々にしたい。バランスは大切だ。

 好きな駄菓子、というものは、意識していないもので……どれにしようか困りながら、並んでいる駄菓子を眺める。量り売りのグミまで合って、どうしようか決めかねた。

 メグルの方を盗み見れば、カゴにポンポンっとすごいスピードで入れていた。駄菓子が好きなんだなと思えば、勝手に口角が上がっていく。駄菓子も似合う女子高生。ふっと笑いたくなって、涼しげなメグルの首元に目がいく。

 チラリと髪の隙間からのぞいたうなじの白さに、見ては行けないものを見た気がして目を逸らす。肉球型のグミを見つけて、メグルに似合いそうだからとりあえず袋に詰めた。

 しょっぱいものの定番は、やっぱりイカだろうか。カツもいい。目につくもの、気になったものを適当にカゴに入れる。

 ふうっと首筋に息が掛かって、振り返ればメグルがスマホを手に持っていた。

「値段、考えてる?」

 全く、考えていなかった。それでも、カゴの中を見る限りまだ、あと三百円分くらいは買えるはずだ。

「オーバーしたら、ダメだからね! 予算内で買うっていうのが駄菓子の醍醐味なんだから」

 ふんっと顔を背ける姿に、くっくっと喉の奥から笑いが込み上げてきた。小学生の遠足以来の経験に、胸が踊ってる。メグルと過ごす時間は、楽しすぎて、気が狂いそうだった。