あ、これって、ガチでクリスマスデートっていうやつなんだ。
 ふわふわとした頭で「デート」を噛み締めつつ、瀬尾と一緒にツリーを見た、その日の夜。俺はそれはもう見事な知恵熱を出した。
 たぶん、小学校ぶりの知恵熱。「小さいころと同じ熱の出し方」と心配半分呆れ半分で笑った母さんは、「日向を見習えとは言わないけど、たまには誰かに頼りなさいよ」と。スポーツ飲料を置いて、部屋を出ていった。
 のろのろとキャップをひねって水分を補給し、そっと息を吐く。なんというか、熱だけのせいでなく顔が熱い。ペットボトルをフローリングの上に戻すと、俺はがばりと布団にもぐりこんだ。
 記憶の片鱗が過るだけで、謎の羞恥に悶えそうになる。冗談抜きでちょっとヤバいんじゃないかな、これ、という気分だ。まぁ、謎というか、浮かれた恋心でしかないわけだけど。
 熱を下げるためにも一時停止をしたいのに、思考が止まる気配はない。
「あー……、変なことしてないよな、俺」
 いや、うん、たぶん、きっと、していないはずだ。言い聞かせ、布団にくるまったまま、深々と熱い息を吐く。
 知恵熱を出した時点でお察しだと思うけど、完全にキャパオーバーだったのよ。
 うんうんと羞恥と高熱に唸ることになったクリスマスイブの夜。俺はおぼろげな夢を見た。
 恥ずかしい、恥ずかしい、と膝を抱えて泣く小さな俺を、べつに、なにも恥ずかしくねぇよ、バーカ、と高校生の俺がぶん殴っているような夢で、いや、抱きしめるとか慰めるじゃないんだと自分に呆れたところで目が覚めた。

「やば、遅刻……!」
 カーテンの隙間から差し込む光量に、焦って飛び起きた瞬間。「終業式だけど、今日は休んだら?」と母さんに言われていたことを思い出し、俺はベッドに舞い戻った。
 さすが知恵熱というべきか、ぐっすりと眠ったことで身体は軽くなっている。
「今、何時だろ……」
 ひとりごちて、枕もとのスマートフォンに手を伸ばす。十時二十一分という表示に、よく寝たなぁと納得したところで、メッセージの受信通知に気がついた。
 アプリを開くと、昨日の夜にいまさらながらIDを交換した相手からの複数のメッセージ。
『日向に熱出したって聞いたんだけど、大丈夫?』
『昨日、そんなに寒かった?』
 心配がありありと伝わる文章が、とんでもなく照れくさい。気恥ずかしさを堪え、『大丈夫、知恵熱だから』と返事を送る。
 一時間以上経ってからの返信だったのに、あっというまに既読がついて『知恵熱?』と返ってきた。
 いや、そうか。この年だったら、「心因性の熱」と表現したほうが正しいのか。でも、それは、ちょっと語弊があるような。悩んだ末、『もう下がった』と返信をすれば、『お大事に』という返事。
 画面に浮かぶシンプルな文字列を眺めたまま、口元をゆるめる。気恥ずかしいし、むず痒いけれど、それ以上に胸の奥があたたかくて、うれしい。
 これが恋かぁ、と。しみじみとした気分で昨夜ぶりに噛み締める。
 いや、俺、彼氏ができましたわ。