コンビニの自動ドアが開くたび、寒いなと思う回数は日に日に増えて、とうとうクリスマスまであと一週間になった。
今冬一番の冷え込みという触れ込み通りの寒さに、レジカウンターの中で小さく首をすくめる。
――そういや、明日は雪って言ってたなぁ。
バス通かなぁ、面倒だなぁと鬱々と考えていると、バックヤードの扉がピロンと開いた。
「あ、遠坂くん」
お母さんと手を繋いで出てきたなるちゃんが、にっこりとほほえむ。変な意味ではなく、まっとうにかわいい。「こんにちは」と手を振ると近寄ってくれるので、なおさらだ。
レジの前で立ち止まったなるちゃんは、そこでふと首を傾げた。
「遠坂くん、今日は瀬尾くんと一緒じゃないの?」
「んー、今日は木内さんだよ」
ちなみに、明後日は真矢さんで、その次はまた木内さんというシフトになっている。この調子でいくと、年内は瀬尾と一緒になることはないんじゃないかな。
そんなことを考えながら、店内の飾りつけに勤しむ木内さんの背中を「ほら」と指し示す。木内さんは、レジで接客をするより、動き回っていたい派閥なのだ。
「そーなの? だから元気ないの?」
「ええ……、いや、そんなことはないと思うけど」
木内さんにまったく興味を示さず、けろりと質問をするなるちゃんに、ついつい苦笑いになる。
なるちゃんには悪意はなくとも、「なに、きみ、人によって態度変えるんだ」と思われそうで、俺が気まずい。いや、まぁ、被害妄想なんだけど。
「こら、なる」
俺の苦笑いを見かねたように、川又さんの奥さんがなるちゃんを窘める。
「そういうこと言わないの」
「だってぇ、そう思ったんだもん」
「はは、……いや、ぜんぜん。ちょっとテストが悪かったからかな」
「テスト? そっか、そっか。もうそんな時期だよね。おつかれさま」
実際は、いつもどおりの可も不可もない点数で返却済みなわけだけど。「ありがとうございます」と俺は愛想笑いを返した。
一家三人揃って俺の癒し、いわゆる箱推しというやつなので、余計な気は使ってほしくないのである。
それに、元気がないつもりはないし。はは、ともう一度笑った俺に、なるちゃんはみゅっと眉を寄せた。
「あのね、遠坂くん」
「ん? なに、なるちゃん」
「喧嘩したら、ちゃんと仲直りしないといけないんだよ」
「え……」
「あ、ごめんね、遠坂くん。最近、瀬尾くんと一緒じゃないから、気になっちゃったみたいで」
瞠目した俺に、川又さんの奥さんは「こら」というようになるちゃんを引き寄せる。
「ほら、遠坂くんもだけど、瀬尾くんも、なるのことよく構ってくれるでしょ?」
「ああ、……ですね」
「でしょ? だから、なる、ふたりのことが大好きで」
一緒じゃないのが気になったんだよね、となるちゃんに笑いかけ、また俺を見る。
「でも、シフトは遠坂くんが決めてるわけじゃないもんね。そのあたり、まだよくわかってないみたいで。ごめんね、変なこと言って」
「いえ、ぜんぜん。それに、本当に、たまたまちょっとタイミングが合わなくなっただけなんで」
調子を合わせて笑い、俺はなるちゃんに視線を合わせた。
「ごめんね、なるちゃん。でも、大丈夫。喧嘩なんてしてないよ」
「本当?」
「本当、本当。それに、ここで会わなくても、瀬尾とは学校で会うから」
「そっか。瀬尾くんと遠坂くん、高校も一緒なんだったね。いいね、仲良くて」
「ですね」
笑って頷くと、なるちゃんはようやく少し納得した顔になった。
不服そうにいじっていたキーホルダーから指を離し、「なら、いいけどぉ」と唇を尖らせながら言う。
「ありがとね」
まぁ、べつに、落ち込んでいるつもりもないし、喧嘩をしているつもりも本当にないんだけど。少なくとも、俺は。
――いや、まぁ、瀬尾も怒ってはないと思うんだけど。
呆れてはいるかもしれないけれど、たぶん、その程度だろう。バイバイと手を振ったなるちゃんに手を振り返して見送ると、木内さんから声がかかった。
「遠坂くん。この飾り、良い感じになってる?」
「あ、――もうちょっと気持ち右でもいいかもです」
「了解、ありがとう」
当初の位置から少し右にずらし、木内さんが棚に飾りをつけていく。赤と緑の、いかにもクリスマスという感じのモール。クリスマスまでは、あと一週間だ。
今冬一番の冷え込みという触れ込み通りの寒さに、レジカウンターの中で小さく首をすくめる。
――そういや、明日は雪って言ってたなぁ。
バス通かなぁ、面倒だなぁと鬱々と考えていると、バックヤードの扉がピロンと開いた。
「あ、遠坂くん」
お母さんと手を繋いで出てきたなるちゃんが、にっこりとほほえむ。変な意味ではなく、まっとうにかわいい。「こんにちは」と手を振ると近寄ってくれるので、なおさらだ。
レジの前で立ち止まったなるちゃんは、そこでふと首を傾げた。
「遠坂くん、今日は瀬尾くんと一緒じゃないの?」
「んー、今日は木内さんだよ」
ちなみに、明後日は真矢さんで、その次はまた木内さんというシフトになっている。この調子でいくと、年内は瀬尾と一緒になることはないんじゃないかな。
そんなことを考えながら、店内の飾りつけに勤しむ木内さんの背中を「ほら」と指し示す。木内さんは、レジで接客をするより、動き回っていたい派閥なのだ。
「そーなの? だから元気ないの?」
「ええ……、いや、そんなことはないと思うけど」
木内さんにまったく興味を示さず、けろりと質問をするなるちゃんに、ついつい苦笑いになる。
なるちゃんには悪意はなくとも、「なに、きみ、人によって態度変えるんだ」と思われそうで、俺が気まずい。いや、まぁ、被害妄想なんだけど。
「こら、なる」
俺の苦笑いを見かねたように、川又さんの奥さんがなるちゃんを窘める。
「そういうこと言わないの」
「だってぇ、そう思ったんだもん」
「はは、……いや、ぜんぜん。ちょっとテストが悪かったからかな」
「テスト? そっか、そっか。もうそんな時期だよね。おつかれさま」
実際は、いつもどおりの可も不可もない点数で返却済みなわけだけど。「ありがとうございます」と俺は愛想笑いを返した。
一家三人揃って俺の癒し、いわゆる箱推しというやつなので、余計な気は使ってほしくないのである。
それに、元気がないつもりはないし。はは、ともう一度笑った俺に、なるちゃんはみゅっと眉を寄せた。
「あのね、遠坂くん」
「ん? なに、なるちゃん」
「喧嘩したら、ちゃんと仲直りしないといけないんだよ」
「え……」
「あ、ごめんね、遠坂くん。最近、瀬尾くんと一緒じゃないから、気になっちゃったみたいで」
瞠目した俺に、川又さんの奥さんは「こら」というようになるちゃんを引き寄せる。
「ほら、遠坂くんもだけど、瀬尾くんも、なるのことよく構ってくれるでしょ?」
「ああ、……ですね」
「でしょ? だから、なる、ふたりのことが大好きで」
一緒じゃないのが気になったんだよね、となるちゃんに笑いかけ、また俺を見る。
「でも、シフトは遠坂くんが決めてるわけじゃないもんね。そのあたり、まだよくわかってないみたいで。ごめんね、変なこと言って」
「いえ、ぜんぜん。それに、本当に、たまたまちょっとタイミングが合わなくなっただけなんで」
調子を合わせて笑い、俺はなるちゃんに視線を合わせた。
「ごめんね、なるちゃん。でも、大丈夫。喧嘩なんてしてないよ」
「本当?」
「本当、本当。それに、ここで会わなくても、瀬尾とは学校で会うから」
「そっか。瀬尾くんと遠坂くん、高校も一緒なんだったね。いいね、仲良くて」
「ですね」
笑って頷くと、なるちゃんはようやく少し納得した顔になった。
不服そうにいじっていたキーホルダーから指を離し、「なら、いいけどぉ」と唇を尖らせながら言う。
「ありがとね」
まぁ、べつに、落ち込んでいるつもりもないし、喧嘩をしているつもりも本当にないんだけど。少なくとも、俺は。
――いや、まぁ、瀬尾も怒ってはないと思うんだけど。
呆れてはいるかもしれないけれど、たぶん、その程度だろう。バイバイと手を振ったなるちゃんに手を振り返して見送ると、木内さんから声がかかった。
「遠坂くん。この飾り、良い感じになってる?」
「あ、――もうちょっと気持ち右でもいいかもです」
「了解、ありがとう」
当初の位置から少し右にずらし、木内さんが棚に飾りをつけていく。赤と緑の、いかにもクリスマスという感じのモール。クリスマスまでは、あと一週間だ。