ある夜、ふとした拍子に、彼女との思い出を振り返った。彼女が言った言葉が、耳に残る。
"一緒にいようね。"その言葉が今は虚しく響く。

「紡会いたいよ…どうしていなくなるの」

僕の心はそろそろ限界に近づいていた。
ふと、手元を見ると放置されていた日記が落ちている。
中身をふりかえってみると、付き合いたての初々しい思い出、日常の出来事、喧嘩した日のこと、夏祭りのこと、そして半年記念を楽しみにしていた僕たちの言葉。彼女と数々の写真や楽しい思い出が僕の心を深く抉った。

「あっ…あっ…ああああああああ!?!!?」

僕は発狂した。そして家を飛び出した。
その時僕は、1つの選択をした。それは、思い出の中で彼女と会うこと。この世界ではもう会えなくても、思い出の中では会えるから。
外は雨が降っていたけど体に任せて走った。裸足のまま走った。知らないビルの屋上まで走った。

「風が気持ちいい。」

僕の心の穴をすっと風が通り抜ける。最初からこうすればよかったんだ。彼女が亡くなってから、今までの日々は何も感じなかった。何も思わなかった。思えなかった。
僕は彼女がいないとダメな人間だったんだ。
彼女を失ったのも僕のせいで、僕が悪くて。

「なんだ簡単な事じゃないか。僕が会いに行けばいいんだ。」

柵を乗り越え、屋上の縁に座った。外の風は気持ちくて、僕のすべてを受け入れてくれた気がした。祖母に最後の言葉を残せなかったのは悔しいけど、両親は既にいないし、彼女に会えるなら、そんなことももう気にしなくなった。

「おい!君何やっているんだ!」

警備員か警察か分からないけど、僕に話しかけた。なにそれ。あなたも邪魔をするの?誰にも迷惑かけてない。迷惑なのは僕の存在。後のことなんてどうでもいい。僕は逢いに行く。これは償いなんだ。

「邪魔しないでください。僕は紡がいないと生きていけない。」

再度日記を開き、最後に思い出にひたった。やっぱり宝物。また生まれ変われたら、また彼女に会えるかな。

「僕の人生つまらないことばかりだったけど、紡のおかげで楽しかった。紡、色々なことを教えてくれてありがとう。また会えたら。」

警備員が柵の向こうから止める中、2人の思い出が詰まっている日記を胸に、僕は夜空に希望を乗せて、足をかけた。
なんて体が軽いんだ。夏祭りの時は、夜空は僕たちを追いかけていたけど、今は背中を押してくれた。雨も、何もかも今は僕の味方だった。
だいすきだ。だいすきだ。紡、だいすきだ。愛してるよ。これからもずーっと一緒だ。

『煌めく夜空に君が笑う
見てるだけで心があったまって
離したくないと思う僕の心
時がいくら経とうとも 君と僕は永遠だ
君は僕の隣に居ない
もう僕の心はさめきって
君に会いに行きたいと思う僕の心
夜空に足をかけた 君と僕は永遠だ』