そして今日も僕は彼女の部屋を訪ねた。体が大分ましになり、車椅子だが自力で動けるようになった。

「光さん。こんにちわ。」
「あら、心くん。今日も来てくれたのね、ありがとう。」

光さんと軽い挨拶を交わした後

「君が、小晴の彼氏かい?」

ずっしり重い声が病室に響いた。
その声の正体は、彼女のお父さんだった。

「...はい。半年くらい前からお付き合いさせて頂いています。雨宮心です。ご挨拶ができていなくてすみません。」

車椅子に載っているので、僕は軽くお辞儀をした。

「娘は。小晴は、どうしてこうなったのか?」

朝日奈さんは声を絞り出して話している。その姿は絶望そのもので、僕は心中を察することしかできなかった。

「僕も一緒に事故にあっていたから詳しいことは分からなくて。思い出せるのは、スピードの出ている車が迫っていたことだけ、です。」
「そうか。」

スっと立ち上がり僕の方に来たと同時に、空中で何かが炸裂した。僕は頬を平手打ちされたのだ。

「いっ...」
「俺はそもそも、小晴に彼氏がいることも、分からなかった。出張で県外へ行っていたから、事故にあってすぐも小晴の元に行ってやることができなかった。」
「それがなぜ今、僕を平手打ちした原因になるんですか?」
「さっき、スピードの出てる車が迫ってきているのが見えたって言っていたな?その瞬間が見えて、分かっていたなら、小晴を突き飛ばしたりでもして、逃げようとできたはずだ!」

朝日奈さんはそう僕の胸ぐらを掴んで叫んだ。

「どうして、何もしなかった!どうして君がっ、!軽症で、小晴がこんなことにならなきゃ行けないんだ!!」

僕も、彼女の身に未だに何が起こってるのか整理がついてないのに、そう言われる筋合いなんてさらさら無い。

「僕だってこうなるなんて分からなかったし、守れるものなら守ってあげたかった!」
「だったら行動に移したのか?君が瞬時に動いていたら、小晴はこうなっていなかった。小晴がこうなってしまったのは、全部君のせいだといってもいいんじゃないか?」
「っ、!!」
「ちょっとやめなさい、お父さんっ、!ここは病院ですよ!」
「僕だって、小晴を水族館になんて誘わなければこんなことにならなかったのかなってずっと自分を責めてます。僕が悪いってわかってます。でも、」
「じゃあ、話は早いな。君はもうこの部屋出てけ。これから、ー歩もこの病室に入るな。」

朝日奈さんは震えた声でそう言うと、彼女のベットの近くに置いてある椅子に座った。

「聞こえなかったのか?出てけと言っているっているんだ。」
「今仮に出ていったとしても、明日も明後日もまた来ますから。」
「ガキの戯言はいいんだよ!帰れって言っているんだ。お願いだから、出てってくれ。」

僕は病室を後にした。本当は帰りたくなんてなかった。別に朝日奈さんにそう言われたから従ったわけじゃない。でも本当に図星だらけで、帰えざるをえなかったのだ。

「どうしよう...か」

僕は自室に戻りずっと考えていた。どうして2人同じところにいたはずなのに僕だけが軽症で、彼女は未だに目を覚まさないのだろうか。

「悔しいなぁ」

この気持ちが心の中でぐるぐると渦巻いている。
気づけばもう夕方。喪失感でぼーっとしている時間が長いと、とても退屈で、彼女との楽しかった日々を思い出すだけだった。

ーーー

次の日になると、僕は事故のことで警察と話していた。
朝、警察に呼び出されていた僕は、ずっとことの詳細を聞かれたり、警察側からわかったことなどをを話してもらっていた。
わかったことは、高齢者が運転する車のアクセルとブレーキの踏み間違えから起こった事故だということ。僕たちの他にも事故にあった人がいること。僕は絶句した。

「これで、雨宮さんへのお話は終わりにしたいと思います。ご協力ありがとうございました。」
「あの、最後にすみません。どうして小晴は意識が戻らないほどひどくて、その、僕がこんなにも軽症に近いんですか?同じところを歩いていたのに。」
「それは後から検証でわかったことなのですが、高齢者の車が雨宮さんや朝日奈さんに突っ込んだ時、車道側にいた雨宮さんは不幸中の幸いと言いますか、そんなに害が出るような打ち方をしなかったんです。うまくかわしたという感じで。それとは反対に、朝日奈さんはそのまま数メートル引きずられてしまって、ぶつかった上になので、身体への衝撃が大き過ぎたのかもしれないですね。」
「だからまだ目を覚まさないというわけですか?」
「必ずしもそうとは言えませんが、近いと思います。」 
「小晴...。」

歩道を歩くときは、車道に行って少しでも危険から守るべくしていたけど、それがかえって裏目に出るなんて。
僕はなんとも言い難い気持ちになった。