僕は両親の顔を写真でしか知らない。
物心が付く前に亡くなってしまい、僕は祖母に引き取られたから。
祖母が、当時父が書いていた日記に残されていた写真を指差して、これが父、母と教えてくれたのが僕にとっての両親の思い出だ。僕も毎日日記を書いている。それが両親と繋がれることだと思ったから。
周りはみんな、僕に両親が居ないと知ると同情してくれたけど、寂しいと思うことはあっても悲しいと思った事はあまりないんだ。
だって、覚えていないから。ただそれだけ。
悲しみを感じるには記憶が必要なんだろうな。
「雨宮 透(あまみやとおる)」僕はそんな風に冷めた男なんだ。
こんな冷たい僕にも寄り添ってくれる、特別な存在がいる。

「透聞いて!今日の朝ごはん、パンとお味噌汁だった!」

そう話す彼女の名前は「朝日奈 紡(あさひなつむぎ)」
彼女はいつも朝から明るい姿を見せ、パンとお味噌汁の謎組み合わせについても、軽快に話した。
僕は黙って彼女を見て、笑っている。
2人で過ごす日常はとても大切なものだった。

これは僕が生涯一人だけ愛した、彼女との物語。