私たちはカラオケ店を出て、近くにある喫茶店に入った。
 上の空で飲み物を注文し、一息つく。
 しばらく無言でいたが、さとみが忌々しげに言った。

「あいつ、一緒にカラオケ行ったら、必ずあの歌を歌って、『今の僕の気持ち』とか言うてたわ」

「私にも。あほやろ、気持ち悪い(きもー!)。今度は、あの子に歌ってるんやね」

 さとみが吹き出した。私もつられて笑う。

「ごめんね。祐華さんだけを悪者にして。あいつ、口がうまいから騙されてた」

「ううん、私も悪かったわ。知らないこととはいえ、掠奪してたってことになるのね」

「そうね、祐華さんは、大翔の浮気相手だったことは間違いないものね」

 さとみは、にこにこしている。
 私は彼女の言葉にカチンときた。

「まあ、浮気でもなんでも、あなたより私を選んでしまってたわけだし」

 さとみの顔色が変わった。

「よく言うわ。祐華さんもあの子に負けてんのよ。そういう意味では私と同じ」

「あーっ、もうやめよう。不毛な争いよね」

 私は急にしらけてしまう。
 つまらない男に振り回されるのはごめんだ、浮気性の男に。

「けど、浮気する以外はいい奴だったのよね」
 心の中でつぶやいたはずの言葉が口からこぼれ出た。

「そうね。こんな形で終わってしまったのは残念やわ」
 さとみの姿は、しょんぼりしているように見えた。

「もっといい人を探そうよ、次は失敗せえへんとこ!」
 私は、彼女を励ますように言う。

 伏し目がちだったさとみが、顔を上げ大きく頷いた。私たちは微笑み合う。

「祐華さんには負けへんよ」
「私も。さとみさんには負けない」

 負けられない戦いは、まだまだ続くのだ。