カラオケ店に入り、一旦部屋を取ってから、私たちはカラオケルームを見て回った。

「いた!」

 かすかに音楽が聞こえてくる部屋のひとつに、大翔と女の子がいるのが、ガラス窓から見えた。

「どうする? 入る?」
 さとみが急き込んで言う。

「待って。少し様子を見たい」
 そう言って、私は壁にもたれた。

「待ってる間に、気づかれないかしら?」
 さとみも私の横で壁にもたれた。

 ここまで尾行してきたものの、これからどうしたらいいのか。大翔と女の子が仲良く歌っているからと言って、浮気現場を押さえたということにはならないだろう。

 悩んでいると、不意にさとみが口を開いた。
「ねえ、祐華さん。ここに大翔とふたりで来たことある?」

「え? あるよ、さとみさんもあるでしょ?」
「大翔、必ず歌う曲があるよね?」
「あー!」

 大翔は毎回、少し古いラブソングを歌う。
 私の耳に、まさにそれを熱唱している大翔の声が聞こえて来た。
 たまらず思い切りドアを開ける。
 突然、部屋に踏み込んだ私とさとみを見て驚愕する大翔。

 私は言い放つ。
「卑怯者! 自分は泥被らんと、私と別れるつもり?」

 さとみも、ほぼ同時に叫ぶ。
「なんなの、この子? 私とヨリ戻したいんじゃなかったの?」
 
 大翔と女の子は、口をポカンと開けたまま固まっている。
 私は、テーブルにあったコップの中身を大翔の頭からぶちまけた。

「ぎゃっ! 大翔さん、この人たち誰?!」
 あわてふためき、おしぼりで大翔の顔を拭いている女の子に「失礼しました」と声をかけて、私は部屋を出た。
 さとみは無言で私について来た。