金曜夕方の駅のコンコースは、なかなかの混雑ぶりである。
 大翔たちの後を追う私たちを、向こうから来る歩行者たちは避けてくれる。尾行などしたことのない私たちだから、もしかしたら、ただならぬ気配を漂わせていたのかもしれない。

 一方で、私たちに全く気づかない様子の大翔たちは、駅構内から出て横断歩道を渡ると、古い雑居ビルに入って行った。私とさとみは、うまく前を歩いている人の陰に隠れて、大翔たちに見つかることなくビルの前まで無事たどり着いた。

 そのまま雑居ビルに入ろうとするさとみを、私は再びひきとめる。

「あのふたり、エレベーターを待ってるかもしれないわ」

 私はこっそりと建物の内部を覗きこんだ。
 エレベーターの前は誰もいない。

「しまった! 見失った、階段で行ったのかしら」

「見て、祐華さん。エレベーターはさっきから3階で止まってる。今、このビルに入ったのは大翔たちだけだから、おそらくふたりは3階にあるカラオケ店に入ったのよ」

 なるほど。
 私たちは雑居ビルの中に入った。
 矢印ボタンを押すと、旧式のエレベーターが1階に降りて来た。素早く乗りこみ、3階ボタンを押す。

「さとみさん、頭いいな」 
「祐華さんこそ、しっかりしてて頼りになるわ」
 私たちはうなずきあう。