さとみが弾かれたように立ち上がり、店を出ようとする。私は咄嗟にさとみの腕をつかんで、彼女をひきとめた。

「ちょっと、何すんの! あれはどういうことか聞きに行かんと!」

 目を吊り上げてまくし立てるさとみの声は、さっきまでの甘い声ではない。ふんわりした雰囲気の女の子だけに、怒った姿は逆に怖い。

 でも彼女が怒るのも無理はない。
 あの腕の組み方、見つめ合い方は、恋人同士のもの。それも今が一番 “いい時” って感じだ。

「待って。黙って後をつけるのよ。ここで問い詰めてどうするの。こんな人の多い場所で修羅場でも演じるつもり?」

 さとみは「あー」と呟いて、うなだれた。
「さ、行くわよ」

 彼女の手を掴んだまま、私は立ち上がる。
 私とさとみは人波に紛れて、大翔と女の子の後を追い始めた。