「えっ?」
 さとみは何を言ってるんだろう?

「1年前、祐華さんが私らに割り込んできたでしょ?」
「割り込んできた? 人聞き悪い」

 私は声が低いので、ドスが効いている。
 一瞬ひるんだ様子のさとみだったが、甘い声で可愛く反撃してきた。

「だって、そうじゃない? 私と大翔がちょっと揉めた隙に、横からサーッと」

「その揉めた理由は、さとみさんの浮気でしょ?」
 早口で(さえぎ)ると、さとみが驚いたように言った。

「はあ? 何それ! なんで私が浮気したことになってんの。大翔が祐華さんと浮気したから、こうなったんでしょう!」

 彼女の甘ったるい声はよく通るから、近くにいる客に全部聞こえてしまう。

「しっ」  
 私は唇に人差し指を当てる。
 さとみは慌てて口を押さえた。

 私は大翔の浮気相手なんかじゃない。誰がなんと言おうと、この一年、恋人としてきちんと付き合ってきた。
 それだけは、はっきりさせなアカン、と身構えた私に、さとみが微笑んでスマホの画面を見せてきた。

「これでも?」
 吹き出しに囲まれた、さとみと大翔の会話。
 私は上から順に丹念に見ていく。
 さとみの綺麗にネイルを施した爪先が、ゆっくりとスクロールしてくれる。なんか腹立つ。

  さとみは今、私の反応を面白がっているに違いない。
  今の私は、きっと驚きと怒りで、とんでもないブス顔になってるんじゃないだろうか。

 なぜなら、汗や涙の絵文字付きで、『俺の浮気を許してほしい』なんて大翔は言ってるのだから!