最寄りのＪＲの駅まで徒歩で５分。私は駅まで早足で歩きながら、彼氏の元カノに会う気まずさとは別に、なんとなく嫌な予感におそわれている。

『大翔さんに関係ある話やから』
　さとみの思わせぶりな言い方から、優越感が漂っていた気がする。

　待ち合わせ場所は、ＪＲ大阪駅改札出てすぐの喫茶店。
　外から丸見えの落ち着かない店だから長居しないぞ、と私は決意する。

　店内はほぼ満席で、さとみは一番手前の２人掛けの席でぼんやり座っていた。
　入り口で軽くお辞儀した私に気づくと、彼女は立ち上がり、丁寧にお辞儀してくる。私が近づくと、余裕の笑みを浮かべた。

「早いですね」
「ＪＲで１０分とかかりませんから」

「祐華さんは、ええとこにお勤めですもんねえ」
「場所だけは」

「座りません？ あ、ごめんなさい。祐華さんもなんか飲むよね、先、買ってきて」

　私は注文の列に並ぶと、さとみのほうを振り返って見た。彼女は優雅な仕草でジュースのようなものをひとくち飲んで、そのあとバッグからスマホを出して、何やら熱心にいじりはじめた。

「お待たせ」
　フラペチーノと水を載せたお盆を手に席に戻ると、さとみが向かいの椅子の上から自分の荷物をどけて、「どうぞ」と言った。
　私は、「ありがとう」と答えて座る。

そんな私たちの姿は傍目(はため)には、仲良しの友達に見えるかもしれない。実際には、ほとんど口もきいたことのない、元カノ今カノのふたりなのだけれど。

　私はよく冷えたコーヒーをひとくち飲むと、さとみの言葉を待つ合図のつもりで、眉を上げた。すると、さとみが真面目な顔できっぱりと言う。

「単刀直入に言うわね。大翔さんをそろそろ返してくれへん？」