女子ロッカールームに行くと、まだ念入りにメイクを直している萌(もえ)がいた。

「あれ、意外と早かったな。取引先からちゃうかったん？」
「違う。大翔(ひろと)さんの元カノやった」

　私は制服から私服に着替え始める。
　今日は、大翔さんと外で晩御飯を食べる約束だった。しかし、昼休みに彼から連絡が来て予定変更になった。
　せっかく、今日は新品のワンピを着てるのに。

「で、元カノが何言うてきたん？ てか、祐華(ゆうか)は元カノと仲良しやったんか」
「ううん。せやから不気味やねん。突然なにごとかと」
「大翔さんとその人が、ちゃんと別れてないとか？」

　萌の疑問に、私は答えられない。
　すると彼女は、パフでパウダーファンデを叩いていた手を止め、驚いたように言った。
「いや！ マジなん！？」

「違う、違うよ。別れてるはず、多分。大翔さんとは、彼女(恋人)が浮気したから別れたい、言うて相談されて、仲良うなったし。もう１年も前やで」

「そう。それなら、なんで今頃元カノが連絡して来るの」
「さあ？ なんやろ」

「別に決闘するんちゃうよね。ほら、江戸時代に前妻が後妻に殴り込みかけるみたいの、あったやん」
「何？ それ怖い(コワ)。あーあ、気が重いわ」

「そもそも大翔さんとは、なんか意識高い系の集まりで知り合うた(しりおうた)んやったっけ？」
「異業種交流会やけど」

「彼、お金持ちやったな。元カノもモデルやった？ ラジオのパーソナリティみたいなんもしてる人でしょ。なんで、大翔さんも祐華と付き合う気になったんかいな。あ、いや、なんでもない」
　萌は、ウヒヒと笑った。