その後、尋ねてもいないのに、さとみから交際の進捗状況を報告してくるメールが、ちょくちょく届くようになった。
 ところが、3ヶ月後の令和3年3月のある日のこと、さとみから届いた長文メールは意外な報告が書かれていた。

『山田さんとはお別れしました。彼、転勤で故郷に帰るんですって。転勤いうても、志願してのことなんやそうで。まあ、ご栄転らしいけど。ひとりっ子やし、ご両親のことも心配やし、って言われたら何も言えません。実は、プロポーズもされたけど、お断りしてん』

 私はびっくりしたが、『それでいいの?』と短い返事を送った。
『私に田舎暮らしが出来ると思う?』
 逆にさとみに聞かれ、
『さあ? 私は好きな人と一緒なら出来る』
 と、またまた短い返事を送った。

『そう。祐華さんてすごいね。私は無理かな。ということで、またオンライン飲み会するから来てね』
 さとみのドライさに呆れて、私はそれには返信しなかった。

 
 さらに、次の週のこと。
 昼休みで外に出た時、ばったり山田さんに会った。
「山田さん、お久しぶり。お元気?」
「ほんまやね、お久しぶりです。あの飲み会以来かな」

 私が声を掛けると、如才ない返事が返ってきた。ナニ? この見た目も返事も爽やかなイケメンは。こんな人を振るなんて許されへん。

「今日は、この辺にご用事でも?」
「挨拶回りです。転勤で故郷に帰ることになったんで」
「さとみさんから聞きました。ご栄転なんでしょ?」

「僕以外誰もいないような、すごく小さい支社の長ですけど。少しずつ世の中が変わって、都会集中はもう古いってことですかね。あっ、そうや。さとみさんには振られました。田舎には住まれへんって」

「そうですか。けど、さとみさんのお仕事は、都会(ここ)じゃないと出来ませんし。仕方ないことなんかなあ」

 全部知っているが、知らんふりして言う。しかも、さとみのことを庇うつもりはないのに、彼女に代わって弁解してしまう。

 私たちの間を、サラリーマン二人連れが「失礼」と言いながら横切ったのをきっかけに、私は山田さんに言った。

「ここではお話も出来へんし。そうだ、良かったら今日オンライン飲み会しませんか? 山田さん、誰か誘ってください。私も友だちに声かけるし」

 私は萌の顔を思い浮かべる。その夜のオンライン飲み会は、山田さんの送別会のつもりだった。