「おはよー!」
目覚ましに変わる大きな声が聞こえてくる。
セイと同居し始めてから、約一ヶ月程経っていた。
セイはいつも先に目を覚まし、大きな声で私を起こしにかかる。
そもそも、寝ているのかどうかも怪しいが……。
そんな訳で私は最近、スマホのアラームを設定する必要が無くなっていた。
「……おはよ」
「今七時だよ!今日は仕事に行く日だよね?急げ、急げっ!」
と私の背中を叩く。
正確には、叩く動作をしている。
実際に触れることは無いため、私の身体は微動だにしない。
とは言いつつも、出勤日であるには変りないため、布団を剥ぎ起床する。
「今日の朝ご飯は何にするのー?」
リビングからセイの声が聞こえた。
「パンでお願いします」
と歯磨きをしながら答える。
その後パパッと着替えて、化粧を済ませた。
元々薄化粧を好むタイプなので、時間はかからない。
最近は、パンを焼くのはセイの係だった。
モノには触れるため、簡単な家事などは手伝ってくれている。
「サエってどうして、仕事に行く日の朝はいつも食パン半分なの?仕事に行く日こそ、体力必要じゃない?」
セイはトースターで、パンの焦げ目具合を見ながら聞いてくる。
色々してリビングに戻ってくると、セイと目があった。
私は小さな声で答えた。
「……。だって、喉に通らないんだもん」
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
祖父母に引き取られ育った私は、幼い頃から自分の居場所に自信がなかった。
愛されていた。
何不自由無く育てて貰った。
頭ではそう分かっていても、
「私はいつか、見捨てられてしまうのではないか」
という根拠の無い不安が拭えなかった。
そんな不安を私は長い年月、抱え過ぎてしまったらしい。
常に人からの評価に怯え、「気分を害さないように」と振舞う癖が染みついた。
そんな私にとって、仕事と人間関係の両立を図ることは思った以上に難しかった。
築き上げた人間関係も、仕事のミスで簡単に崩壊してしまう。
そんな極端な思考に心が振り回され、
いつしか身体は、今までに感じたことが無い程の不安と恐怖で支配されていた。
そのため、就職してからの食事量はどんどん減っていた。
まだ休日は人並みの食事がとれているが、
出勤日の朝と昼はほとんど何も喉を通らなかった。
何故か、喉の辺りがギュッと締め付けられるような感覚に陥るのだ。
大抵そういう時、喉を通してくれるのはゼリー飲料くらいだ。
最近までは「仕方がない」と諦めていたが、ここ一ヶ月はめまいも増えてきて、
無理やり食パンを胃に流し込んでから出勤していた。
「サエ……ねぇ、サエ!大丈夫?今日お仕事休む?」
急に一点を見つめて動かなくなった私を心配して、セイが声をかけてきた。
私はハッと顔をあげ、出来る限り全力の笑顔を作り
「急に休んだら、迷惑かけちゃうよ」
とありきたりな言葉を並べた。
セイが心配そうな顔を向ける。
そんなに笑顔がぎこちなかっただろうか。
でも仕事には行かなければならないのだ。
「ごめん!大丈夫だから。パン……せっかく焼いてくれたのに、ごめんね」
私は食べきっていないトーストを見て、申し訳ない気持ちで一杯だった。
若干後ろ髪を引かれつつ、勢いで「行ってきます」とだけ言って玄関を出た。
目覚ましに変わる大きな声が聞こえてくる。
セイと同居し始めてから、約一ヶ月程経っていた。
セイはいつも先に目を覚まし、大きな声で私を起こしにかかる。
そもそも、寝ているのかどうかも怪しいが……。
そんな訳で私は最近、スマホのアラームを設定する必要が無くなっていた。
「……おはよ」
「今七時だよ!今日は仕事に行く日だよね?急げ、急げっ!」
と私の背中を叩く。
正確には、叩く動作をしている。
実際に触れることは無いため、私の身体は微動だにしない。
とは言いつつも、出勤日であるには変りないため、布団を剥ぎ起床する。
「今日の朝ご飯は何にするのー?」
リビングからセイの声が聞こえた。
「パンでお願いします」
と歯磨きをしながら答える。
その後パパッと着替えて、化粧を済ませた。
元々薄化粧を好むタイプなので、時間はかからない。
最近は、パンを焼くのはセイの係だった。
モノには触れるため、簡単な家事などは手伝ってくれている。
「サエってどうして、仕事に行く日の朝はいつも食パン半分なの?仕事に行く日こそ、体力必要じゃない?」
セイはトースターで、パンの焦げ目具合を見ながら聞いてくる。
色々してリビングに戻ってくると、セイと目があった。
私は小さな声で答えた。
「……。だって、喉に通らないんだもん」
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
祖父母に引き取られ育った私は、幼い頃から自分の居場所に自信がなかった。
愛されていた。
何不自由無く育てて貰った。
頭ではそう分かっていても、
「私はいつか、見捨てられてしまうのではないか」
という根拠の無い不安が拭えなかった。
そんな不安を私は長い年月、抱え過ぎてしまったらしい。
常に人からの評価に怯え、「気分を害さないように」と振舞う癖が染みついた。
そんな私にとって、仕事と人間関係の両立を図ることは思った以上に難しかった。
築き上げた人間関係も、仕事のミスで簡単に崩壊してしまう。
そんな極端な思考に心が振り回され、
いつしか身体は、今までに感じたことが無い程の不安と恐怖で支配されていた。
そのため、就職してからの食事量はどんどん減っていた。
まだ休日は人並みの食事がとれているが、
出勤日の朝と昼はほとんど何も喉を通らなかった。
何故か、喉の辺りがギュッと締め付けられるような感覚に陥るのだ。
大抵そういう時、喉を通してくれるのはゼリー飲料くらいだ。
最近までは「仕方がない」と諦めていたが、ここ一ヶ月はめまいも増えてきて、
無理やり食パンを胃に流し込んでから出勤していた。
「サエ……ねぇ、サエ!大丈夫?今日お仕事休む?」
急に一点を見つめて動かなくなった私を心配して、セイが声をかけてきた。
私はハッと顔をあげ、出来る限り全力の笑顔を作り
「急に休んだら、迷惑かけちゃうよ」
とありきたりな言葉を並べた。
セイが心配そうな顔を向ける。
そんなに笑顔がぎこちなかっただろうか。
でも仕事には行かなければならないのだ。
「ごめん!大丈夫だから。パン……せっかく焼いてくれたのに、ごめんね」
私は食べきっていないトーストを見て、申し訳ない気持ちで一杯だった。
若干後ろ髪を引かれつつ、勢いで「行ってきます」とだけ言って玄関を出た。