「はい、もしもし」
「あ、松川サエさんのお電話でお間違いないでしょうか」
「はい、合ってます」
「今お時間よろしいですか?」
「大丈夫です。何かあったんですか?」
「ええ。松川さんのご家族様、佐藤エミさんについてお伝えしたいことがありまして、本日お電話した次第です」
おばあちゃん……?
胸がドキドキする。
破裂するんじゃないかという程、激しく脈を打つのを感じていた。
「佐藤さんが本日、急遽入院されまして」
「入院……。なんで!」
「サエ、落ち着きなよ」
セイは心配そうに眉を下げながらも、落ち着いた声色でこちらの平静を取り戻させてくれた。
「すみません、どういった理由での入院なのでしょうか?」
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
ガラガラガラ……
「あらー!サエちゃん!来てくれたのね、嬉しいわ!」
「あばあちゃん……」
私は苦笑いする。
おばあちゃんは腰の圧迫骨折で入院していた。
リハビリを含めて二ヶ月くらいを予定した入院だそうだ。
私は電話で事情を聞いた途端、安堵に包まれた。
病気に良し悪しは無いが、一旦内科的な問題ではなくて良かった。
そんな具合で、水族館に居た私たちは急いで直接病院に向かったのだった。
セイも快く了承してくれ、今隣に立っている。
この病院は街の中でも結構大きめで、家からもかなり近い。
小児科まで併設されているため、私も昔はよく風邪を引いた時に連れて来られた。
「おばあちゃん、腰の痛みはどう?」
「この角度なら問題ないわよ」
ベットは緩やかな角度までギャッチアップされ、
腰が立つようにセッティングされてあった。
「ただ、モノを取ったり、寝返りをうったりは暫く出来ないわね」
「そっか。今日の夜眠れるかな?」
「あら、おばあちゃんを舐めちゃいけないよ」
「これでも戦後を生きてきたんだ。こんなことじゃ、へこたれないよ!」
おばあちゃんは笑顔でそう言った。
「今日は何も用意して来れなかったけど、必要なモノはまた明日持ってくるから」
「ありがとう。助かるわ。でもあらかた施設の方にまとめてあるから、スタッフさんにお願いしようかしらね」
確かに、パジャマも歯ブラシも施設に置いてある。
必要なのはタオルやオムツ類くらいか?
「わかった。でもタオルとかは要るでしょ?」
あぁ確かに、とおばあちゃんは盲点だったと言わんばかりに頷いている。
「じゃぁ、それと何か暇つぶしになりそうなモノ持って来るね」
「そうよ、暇つぶしに使えそうなモノは何でも持って来てちょうだい!何たって中身は元気なんだもの」
と食いつき気味に声を上げた。
「施設じゃ色々な催し物があったり、お友達ともお喋り出来るから退屈しなかったんだけど、ここは一人だから寂しいわ」
本当は大部屋を希望したらしいが、部屋が空いておらず個室になったらしい。
「わかった。本とか、昔やってたパズルの冊子とか持って来るね!」
ありがと、とおばあちゃんはゆっくり微笑んだ。
「それはそうと、大きな紙袋ね」
「あ!えーと、今日丁度水族館に行ってて……」
「あら、そうなの!邪魔しちゃったわね」
「いやいや、もう帰る所だったし」
「一人で行ったの?」
「あー、友達と行ったんだけど、流石にここには来させられないじゃない!」
私は慌てながら、しどろもどろに答える。
セイもそっぽを向いていた。
「そう言えば、この水族館のチケットね、梶本さんが商店街の福引で当ててくれたの!だから、お土産もしっかりと買ったのよ」
と若干強引に話を逸らした。
セイが隣で、クスクス笑っている。
悔しいが、今の状況ではそれを横目で見届けることしか出来ない。
その後、視線をおばあちゃんの方に戻すと、
あろうことか先程私が視線を送っていた方をジーッと見つめていた。
私は、唾をゴクッと飲み込む。
「おばあちゃん、どうしたの?そんな壁の方を見つめて」
おばあちゃんって見えるタイプの人だったっけ⁉
と心の中でツッコむ。
「いや、誰かおられる……気がして」
「何言ってんの、ここにいるのは私だけだよ!」
「そうよね、疲れているのかもしれないわ。気のせいね」
そう言っておばあちゃんは微笑み、手に持った水族館のチケットに目を通していた。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
「はぁー、びっくりした!まさか、うちのおばあちゃんに霊感があったなんて」
サエは晩御飯の鮭を焼きながら、リビングでくつろぐセイに届くように声を張る。
「そうだね、ちゃんと目があったから間違いないと思う」
セイは今日買った、ジンベエザメのぬいぐるみをモフモフしながら答えた。
「えっ、目合ったの⁉」
「目合った」
「それって、普通に見えてるじゃない!」
何でおばあちゃんは誤魔化したんだろう。
そんなことを考えていると、今日のメインディッシュになるはずの鮭が、焦げる一歩手前になっていた。
ちなみに梶本さんへのお土産は、帰ってすぐにご自宅のチャイムを鳴らしお渡しした。
渡す直前まで喜んでくれるか心配だったが、手渡したクッキーの絵柄が気に入ったらしく、何度も眺めてくれていた。
「あ、松川サエさんのお電話でお間違いないでしょうか」
「はい、合ってます」
「今お時間よろしいですか?」
「大丈夫です。何かあったんですか?」
「ええ。松川さんのご家族様、佐藤エミさんについてお伝えしたいことがありまして、本日お電話した次第です」
おばあちゃん……?
胸がドキドキする。
破裂するんじゃないかという程、激しく脈を打つのを感じていた。
「佐藤さんが本日、急遽入院されまして」
「入院……。なんで!」
「サエ、落ち着きなよ」
セイは心配そうに眉を下げながらも、落ち着いた声色でこちらの平静を取り戻させてくれた。
「すみません、どういった理由での入院なのでしょうか?」
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ガラガラガラ……
「あらー!サエちゃん!来てくれたのね、嬉しいわ!」
「あばあちゃん……」
私は苦笑いする。
おばあちゃんは腰の圧迫骨折で入院していた。
リハビリを含めて二ヶ月くらいを予定した入院だそうだ。
私は電話で事情を聞いた途端、安堵に包まれた。
病気に良し悪しは無いが、一旦内科的な問題ではなくて良かった。
そんな具合で、水族館に居た私たちは急いで直接病院に向かったのだった。
セイも快く了承してくれ、今隣に立っている。
この病院は街の中でも結構大きめで、家からもかなり近い。
小児科まで併設されているため、私も昔はよく風邪を引いた時に連れて来られた。
「おばあちゃん、腰の痛みはどう?」
「この角度なら問題ないわよ」
ベットは緩やかな角度までギャッチアップされ、
腰が立つようにセッティングされてあった。
「ただ、モノを取ったり、寝返りをうったりは暫く出来ないわね」
「そっか。今日の夜眠れるかな?」
「あら、おばあちゃんを舐めちゃいけないよ」
「これでも戦後を生きてきたんだ。こんなことじゃ、へこたれないよ!」
おばあちゃんは笑顔でそう言った。
「今日は何も用意して来れなかったけど、必要なモノはまた明日持ってくるから」
「ありがとう。助かるわ。でもあらかた施設の方にまとめてあるから、スタッフさんにお願いしようかしらね」
確かに、パジャマも歯ブラシも施設に置いてある。
必要なのはタオルやオムツ類くらいか?
「わかった。でもタオルとかは要るでしょ?」
あぁ確かに、とおばあちゃんは盲点だったと言わんばかりに頷いている。
「じゃぁ、それと何か暇つぶしになりそうなモノ持って来るね」
「そうよ、暇つぶしに使えそうなモノは何でも持って来てちょうだい!何たって中身は元気なんだもの」
と食いつき気味に声を上げた。
「施設じゃ色々な催し物があったり、お友達ともお喋り出来るから退屈しなかったんだけど、ここは一人だから寂しいわ」
本当は大部屋を希望したらしいが、部屋が空いておらず個室になったらしい。
「わかった。本とか、昔やってたパズルの冊子とか持って来るね!」
ありがと、とおばあちゃんはゆっくり微笑んだ。
「それはそうと、大きな紙袋ね」
「あ!えーと、今日丁度水族館に行ってて……」
「あら、そうなの!邪魔しちゃったわね」
「いやいや、もう帰る所だったし」
「一人で行ったの?」
「あー、友達と行ったんだけど、流石にここには来させられないじゃない!」
私は慌てながら、しどろもどろに答える。
セイもそっぽを向いていた。
「そう言えば、この水族館のチケットね、梶本さんが商店街の福引で当ててくれたの!だから、お土産もしっかりと買ったのよ」
と若干強引に話を逸らした。
セイが隣で、クスクス笑っている。
悔しいが、今の状況ではそれを横目で見届けることしか出来ない。
その後、視線をおばあちゃんの方に戻すと、
あろうことか先程私が視線を送っていた方をジーッと見つめていた。
私は、唾をゴクッと飲み込む。
「おばあちゃん、どうしたの?そんな壁の方を見つめて」
おばあちゃんって見えるタイプの人だったっけ⁉
と心の中でツッコむ。
「いや、誰かおられる……気がして」
「何言ってんの、ここにいるのは私だけだよ!」
「そうよね、疲れているのかもしれないわ。気のせいね」
そう言っておばあちゃんは微笑み、手に持った水族館のチケットに目を通していた。
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「はぁー、びっくりした!まさか、うちのおばあちゃんに霊感があったなんて」
サエは晩御飯の鮭を焼きながら、リビングでくつろぐセイに届くように声を張る。
「そうだね、ちゃんと目があったから間違いないと思う」
セイは今日買った、ジンベエザメのぬいぐるみをモフモフしながら答えた。
「えっ、目合ったの⁉」
「目合った」
「それって、普通に見えてるじゃない!」
何でおばあちゃんは誤魔化したんだろう。
そんなことを考えていると、今日のメインディッシュになるはずの鮭が、焦げる一歩手前になっていた。
ちなみに梶本さんへのお土産は、帰ってすぐにご自宅のチャイムを鳴らしお渡しした。
渡す直前まで喜んでくれるか心配だったが、手渡したクッキーの絵柄が気に入ったらしく、何度も眺めてくれていた。