「着いたー!」

私は大きく背伸びをする。

今日は快晴。
とても良い天気だ。

暦では九月に入ったが、まだまだ暑い。

私は細かい花柄のワンピースに、
ブラウンのレースアップサンダルをチョイスしていた。

カメラは今ショルダーバッグの中に納めている。

セイは相変わらずの、セーラー服だ。
当たり前だけど。

今現在どこに居るのかというと、最寄りの駅から電車で約二時間のところにある水族館。

話の発端はというと、だいたい一週間前におよぶ。

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私は商店街で晩御飯の買い物をしていた。

いつも通りレジに並び会計を済ませると、店員のおばちゃんに
「はい!これ!」
と何かのチケットみたいなものを渡された。

「コレね、そこでやってる福引抽選会のチケット!帰りに時間があったらやっておいでね!」
と花が咲いたような明るい笑顔で言われた。

「福引か……、良いの当たった試しが無いんだよな。まぁでもせっかくだし、回すだけ回してみるか!」

私は抽選会の列に並んでみた。

この時間帯、あまり人は並んでおらず、直ぐに自分の番がまわって来た。

「さぁお嬢さん、頑張れっ!」
と目の前で大きな声援を浴び若干ビックリしながらも、恐る恐るガラガラを回した。

三回程ガラガラ……ガラガラ……と回した辺りで、
コロンッと白い玉が出て来た。

「あー、お嬢さん残念!これ、参加賞ね」

「あっ、ありがとうございます」

参加賞として貰ったのは、ポケットティッシュだった。

ポケットティッシュは何かと便利なので、私は結構嬉しかった。

やってよかった。

そう思いながら、家までの坂を上っていると、
先の方で梶本さんが店じまいをしているのが見えた。

私は、手を振りながら声をかける。
「梶本さーん!こんばんは」

その声に気づいた梶本さんは、
「おう、今帰りか」と言いながら片手を上げる。

若干息を切らしながら家の前に着き、
「そうなんですよ、商店街で晩御飯の材料を買って帰って来たところです」

一息で言いきって、私は大きく息を吸った。

「そう言えば今日の商店街は、何やら騒がしくやっておったな」

「あっ!それきっと福引ですよ!私もさっきやって来たんです」

「結果はどうじゃった?」

「全然だめ、参加賞のティッシュでしたよ」
私は笑いながら結果を報告する。

「そうか、わしもこれから買い物に行く所じゃから、様子を見てくるとするかな」

「いいですね、お気をつけて」

お互い玄関の前で「さようなら」とお辞儀をしてから、それぞれの家に戻った。

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数時間後、私の家のチャイムが鳴った。

ピンポーン

「はーい!」
私は大きな声で返事をして玄関を開けると、そこには梶本さんが立っていた。

「あ、梶本さん!どうされたんですか?」

そう尋ねると、梶本さんは無言で一枚のチケットを私の視界に入れた。
良く見ると、水族館のチケットである。

「え!これどうしたんですか⁉」

「さっきの福引じゃ」

「凄いじゃないですか!」

何等の商品だったか記憶が定かでは無いが、
水族館のチケットは上の方に太文字で書かれてあった気がする。

「これあげるから、時間がある時に行っておいで。興味が無ければ、友達にでも渡しておくれ」

「梶本さん、良いんですか⁉こんな貴重な機会……」

「わしも年だし、孫もおらん。行ってくれた方が有難い」

「そうですか。そういうことでしたら、有難く頂きますね。お土産楽しみにしていてください!」

満面の笑みで私がそう言うと、
「おう」と照れ臭そうに短い相槌が返ってきた。

そういう訳で今に至る。

最初セイに話した時は
「人混みか……」
とあまり乗り気ではなさそうな、気の抜けた返事が返ってきた。

「お願い!私水族館大好きなんだよね!でも一人は心細いじゃない」
と縋るようにセイにお願いする。

「チケットも貰えて料金は無料だし、せっかくカメラもあるんだしさ、行くなら今しかないでしょ!」

「まぁ、いいけど」

おお、思ったよりも簡単に引き受けてくれた!

「やった、ありがと」
満足してニヤケが止まらない。

セイが一緒なら寂しくないし、
急に決まった旅行にウキウキしていたが、
そんな私にセイが一言。

「傍から見て変に見られないようにね」

セイはクスクス笑っている。

そうだった……。
セイは普通の人には見えないんだ。

結局傍から見たら水族館に入るのは、私一人じゃない。

「あ……、そうね。分かっていたわよ、ソンナコト」

明らかな動揺をみせつつも、
何はともあれ行けることには変わりないのだから、これは楽しむしかない!

「行くのは平日が良いよね!空てる方が色々ゆっくり見れるし」

「そうだね。ジンベイザメ居るかな」

「ジンベイザメ好きなの?」

「うん。なんかかわいい」

セイの口から「かわいい」が出てくるとは。

私は、セイも何となく楽しみにしてくれていることが嬉しかった。

「ジンベイザメ居るといいね!」