【すっかり春めいてきましたね。今日ご紹介するお野菜は「ミョウガ」です。日本生まれのミョウガは、日本の気候で育ちやすいとても優秀な子です。日陰で放置しても芽が出るという驚きの生命力ですが、私はもっと正面から光を浴びて欲しい。主張の弱い子達だからと脇役で放置せず、主役になり得る魅力をしっかり届けていきます。そして是非オーダーしてくれ…と念を込めてます。(中略)いつみでは、ミョウガの素材の味を活かした甘酢漬けと、味噌焼きをご用意しています。ぜひ一度ご賞味ください】


「野菜についてすげー語るなこの人、ってほっこりしたのともう一つ。「光を浴びて欲しい」って言葉。俺は、彼にもっとスポットライトを浴びてほしかった。でも文芸部に異動になってからは部外者だからと作品が埋もれていくのを静観した。もう二度と、才能をみすみす手放して後悔することはしないと誓いました。だからこそ気になって、コラムの執筆者を逸見さんに尋ねました」



『――娘が書いてる』

『そうでしたか、素敵ですね。うちの小説のオススメもしてくんないかな』

『…あんた、出版社の人なのか』



「娘が春乃先生だと教えてくれて。でも会って話がしたいと頼んでも、首を縦に振ってくれなかった」

『悪いが、俺は編集者の奴らを信用してない』

『お気持ちはとても分かります。でも俺は、春乃先生の作品をもう一度見たいんです』

『編集者として本当に娘と仕事したいなら、新座さんの誠意と本気を見せてください。言っとくが、それまで娘に直接交渉するのは無しだ』



「あの強面で凄まれて、これは前途多難だと思いましたけど。まあこっちも負けてられないんで」

 何一つ知らない話に、頭がよく追いつかない。油断すれば涙腺が崩壊しそうな予感に、必死に下唇を噛む。


「俺ね、働く時スーツなんか着ないんですよ。でも誠意示せって言われたら、適当な服装で行けないでしょ。毎回着替えてました」

「…うそ」

「ほんとです。朔さんとの距離の縮め方も模索してたら「僕」とか使う変なキャラ設定になるし。逸見さん、もはや面白がってたし。あの人タチ悪いです」

「す、すみません」

 反射的に謝ると、とても優しく表情をほぐす新座さんが頬にかかった髪を丁寧に避けてくれる。