「白羽さん、葵さんたちの記憶は全て?」
「ええ、ばっちり。全部綺麗に消しました」
「一緒に過ごした記憶が全部消えてしまうのは、私にとっては悲しいことだけど、私が突然消えちゃうほうが、葵さんにとっては悲しいことですよね」
 宇宙船内部で、白雪と白羽は食事を摂りながら語り合う。
 高度に科学が発達した星の住人である白雪と白羽は、何年か前から地球に調査に訪れていた。
 彼女たちの星は、環境が悪化し、このまま住み続けるのは難しい状態だ。残された猶予時間は少ない。各国の政府や研究機関が移住先を探しているのが現状だ。既にいくつかの星に、何ヶ国かの住人は移住している。
「地球に行って驚いたのは、私たちと同じ外見の “猫” っていう生き物がいたことですよね」
「それも、地球人に格別愛される存在だったなんて、ねえ?」
 白羽の言葉に、白雪は大きくうなずく。
「地球は、私たちにとって最高の移住先だと思う、って学会で発表するつもりだけど」
 白雪はそこで言葉を切って、うつむいた。
「だけど?」
「私は、世界中の人たちと一緒に頑張って研究して、他の移住先()を見つけたほうがいいと思います」
 猫を愛する優しい地球人のことを思うと、侵略するような真似はしたくない、と白雪は決意したのだ。
 白羽は、白雪の言葉を否定しないが、ひそかに思っている。
 もう既に、猫の中には私たちの仲間がいるのではないか? と。 とても平和裡に、地球が侵略されていることに、地球人は気づいていないのではないかしら?
「葵さんがまた、素敵な猫ちゃんと出会えますように」
 心優しい白雪は、そう呟いた。