部屋のドアは夜寝る前に開け放してあるので、雪はリビングにいるのだろう、と葵は思った。
「おはよ」
 キッチンでお弁当を作っている母に、葵は声をかけてキッチンを覗く。雪は、毎朝キッチンとリビングの間の通路で朝ごはんをもらっている。しかし、そこに雪はいなかった。
「ユキちゃん!」
 いつもなら、葵の呼び声に反応して、抜き足差し足といった様子で来るはずなのに。返事も聞こえない。
 朝のルーティン、トイレと朝ごはん。どちらも欠かせないもの。今日はどちらも済ませていない。
「ユキ! ユキ!」
 葵は呼びながら、家中を探して歩く。お風呂場、トイレ、両親の部屋。
 どこにもいない。
「おかしいわね」
 母も不思議そうに、葵と一緒に呼び続けた。
「どこか隙間から出て行ったのかしら?」
「パパが出た時、一緒に出て行っちゃったとか?」
「それならパパが気がつくはず」
 二人は心配で、落ち着きなく家中をうろうろする。
「探してくる」
「あっ、ちょっと学校は?」
 母の声を無視して、葵は家を飛び出した。
 家の周りを駆け回り、近所の人にも尋ねてみるが、みんな首を捻るばかり。葵の家に猫がいることを知っている人は多いのだが、みんな細かい特徴までは知らないのだ。
 闇雲に探し歩いてみるが、雪は見つからない。
 まさか事故に巻き込まれたんじゃないか? 葵は恐怖で胸が苦しい。
 気分が悪くなった彼女は、一旦家に戻ることにした。
「あっ!」
 玄関の前で、向こう向きに白い猫が座っている。
「ユキちゃん!」
 叫んだ葵の声に反応して、猫が振り向いた。