学校が終わると、葵は飛ぶように家に帰る。休みの日は一日中、雪と遊ぶ。
葵が振ってやるおもちゃの虫を、雪は必死で追いかけ跳ね回る。そっと頭を撫でると、嫌がらず目を細める。
抱っこすると柔らかく暖かく、葵は胸の芯まで幸福感で満たされる心地がする。
そんなある日のこと、母が、
「ユキちゃん、そろそろ避妊手術しないと」
と、重々しく言った。
「えっ?」
まだこの子はこんな小さいのに?
「かわいそう……」
「たくさん子ども産んじゃう方がかわいそうなのよ」
それはそうかもしれないけど。
「それに、春先になると発情期を迎えるから、猫ちゃんもつらいのよ。早めに手術しておくと、病気になる確率も下がるらしいし」
そうなの?
雪は、二人の会話をじっと聞いているように見えた。
「手術なんか、させたくない。家に閉じ込めておけばいいんだよね。一生うちの中でいればいいよね。その代わり、ずっと一緒にいるし、大事にするから」
葵は、彼女の膝の上に乗ってきた雪に宣言した。
翌朝、葵が起きた時、彼女の部屋に置いてある猫用ベッドには、雪の姿がなかった。
葵が振ってやるおもちゃの虫を、雪は必死で追いかけ跳ね回る。そっと頭を撫でると、嫌がらず目を細める。
抱っこすると柔らかく暖かく、葵は胸の芯まで幸福感で満たされる心地がする。
そんなある日のこと、母が、
「ユキちゃん、そろそろ避妊手術しないと」
と、重々しく言った。
「えっ?」
まだこの子はこんな小さいのに?
「かわいそう……」
「たくさん子ども産んじゃう方がかわいそうなのよ」
それはそうかもしれないけど。
「それに、春先になると発情期を迎えるから、猫ちゃんもつらいのよ。早めに手術しておくと、病気になる確率も下がるらしいし」
そうなの?
雪は、二人の会話をじっと聞いているように見えた。
「手術なんか、させたくない。家に閉じ込めておけばいいんだよね。一生うちの中でいればいいよね。その代わり、ずっと一緒にいるし、大事にするから」
葵は、彼女の膝の上に乗ってきた雪に宣言した。
翌朝、葵が起きた時、彼女の部屋に置いてある猫用ベッドには、雪の姿がなかった。