その()がいつから遊びに来るようになったのか、葵は覚えていない。気づいたら、毎日家に遊びに来るようになっていたのだ。
 ある秋の夕方のこと、葵が学校から帰ってきたら、玄関前でいつものように猫が座っていた。外はもう夕闇に包まれる時刻だったが、その子の白い姿がぼんやり浮かび上がって見える。
「にゃーお」
「待っててくれたの?」
 葵は近寄って、頭を撫でてやった。猫は嫌がらず、じっとしたまま葵を見上げる。
「どうぞ」
 葵がドアを開けると、先導するように、さっさと中に入った。
「おかえり。雪ちゃんも一緒?」
 奥から母の声がする。
「ただいま。なに? 勝手に名前つけてるの?」
「白い綺麗な毛をしてるんだもの、それに女の子よね」
 母に雪ちゃん、と呼ばれた小さな猫は、慣れた様子で玄関のテラコッタの床に座る。
 ミルクを入れた深皿を手に、母が玄関にやって来た。
 皿を目の前に置かれた子猫は、顔を突っ込んで一心にミルクを舐める。
「可愛いねえ」
「ねえ、ママ。うちで飼ってあげようよ、パパも反対しないと思うよ」
「えー? チャミが死んじゃってまだ半年にもならないのに。ママはそんな気になれない。それに、この子はどこかの飼い猫じゃないの?」
「首輪はしてないけど」
「犬じゃないんだから。首輪してる猫のほうが少ないでしょ」
 もう何度目だ、この会話、と葵は思う。