■エグナシア島 名もなき森

 僕はリックの案内に従って森の中を歩き、食べられそうな果物をとっていった。
 見た目が知らない形をしているけど、リックが「おいしい」といっているので信じることにする。

「今日はこの辺でいいかな。そろそろ戻らないと母様が心配しちゃう」
『母ちゃんが心配するなら、帰らないとな』
「リックは母様はいないの?」
『オレっちの母ちゃんはリザードマンに食われたんだ』
「リザードマンがいるの!?」

 リックからもたらされたとんでもない情報に僕は大声を上げてしまう。
 前世ではアニメやゲームでおなじみの種族だが、戦闘が大体得意なので温厚な感じは一切しなかった。
 リスすら食べるということは僕も気を付けないといけないだろう。

「じゃあ、なおさら見つからないように帰らなきゃね……リックもよければウチに来る?」
『オレっちが一緒にいってもいいのか? あ、や、アリ坊がどうしてもっていうなら行ってやってもいいぜ?』

 僕のお誘いにリックは首をかしげて大きな目をさらに大きくさせた。
 途中で、兄貴風を無理に吹かせているものの尻尾を犬のようにぶんぶん振っているので説得力が皆無である。

「うん、僕も話し相手が母様だけだと母様に無理させちゃうから、リックが来てくれると嬉しいな」
『仕方ないなぁ、アリ坊の頼みなら仕方ないぜ♪』
 
 きゅいきゅい鳴いたリックは肩から僕の頭の上に移動した。
 話せる友達がいるというのはとっても嬉しいことである。
 これからの無人島生活の先行きが明るいと思っていたら、目の前の木々がざわついた。

『アリ坊! 隠れろ、リザードマンだ!』
「え、えぇ!?」

 リックに言われたものの急なこと過ぎて対応できなかった僕は茂みの中から出て来たリザードマンと目が合う。
 リザードマンの体はワニのような固そうな鱗に覆われていて、目は細かった。
 槍というよりかは銛に近いものを持ち、僕の方を警戒している。

『お前はどうしてここに居る? 人間はこの島に来ないはずだ……いや、そういっても伝わらないか……』
「大丈夫、聞こえているよ。僕は人間の国から追放された第七皇子のアリオスだよ。この島は無人島と聞いていたけど、君たちのようなリザードマンがいたんだね」
『我々の話が伝わる人間だと……これはもしや伝承の?』
『隊長、族長に相談が必要だと思います』
『そうだな……悪いが、おとなしくついて来てもらおうか』

 リザードマンたちが相談をしてから、僕に銛を向けながら話しかけて来た。
 会話ができるだけで、かなり安心できるものなんだなと僕は思う。

「わかったよ。隊長格である君の名前を教えてくれないかな?」
『俺はリザードマン族の族長の息子、バシャク・ダ―だ』
「バシャクだね。よろしくね。リックは僕の胸元とかに隠れていていいから、ついて来て」
『わかったよ、アリ坊。変に暴れても食われそうだからよ』

 リックは頭の上から服の内側に潜り込んで、胸元のあたりに顔をだした。

『いくぞ、ついてこい』
 
 改めてバシャクが茂みを銛で払いながら進む。
 僕は遅れないように急いでついていくのだった。

■リザードマンの村

 森の茂みをいくつか越えた先にあったは湖の中にある木造の家々だ。
 100棟くらいはあるので、そこそこ大きな村と言える。

「ここがリザードマンの集落か……魚の養殖ができれば魚には困らなくなるかも」
『こんな状況でもよく冷静だな。アリ坊は大物になるぜ』
(まぁ、だって前世を合わせたらアラフォーになるんだから落ち着いて対処できるようにもある)

 慌てても仕方ない状況でもあるんだが、僕を縛り付けなかったことなどから敵対の意思をあまり感じなかったのが大きな理由だ。
 会話もちゃんと通じれば齟齬(そご)も少ないので、やり取りはしやすい。
 
『親父、我々の言葉を話せる人間を見つけた』
『おお! なんと、そうするとあの守り神様を動かせるかもしれないということだな』
『そうだ、試している価値はあるだろう』

 バシャクは大きな広場にいる、司祭のような豪華な格好をしたリザードマンと話をし始めた。
 親父といっていたので、族長なのだろう。
 それにしても守り神とはなんだろうか?

『来ていただいて申し訳ない。私がこのリザードマンの集落の長をしているザラグ・ダ―です』
「アリオスです。先ほど話されていた守り神様とはなんでしょうか?」
『はい、村より少し離れた祠にある像なのですが、祠がモンスターの襲撃にあって崩れてしまい、我々にはどうにもできなくなってしまったのです』
「それでどうして僕が?」
『我リザードマン族に伝わる伝承では、”万物と話せるものは神の加護を抱きしもの、島を統べ繁栄をもたらさん”といわれております。神の加護を抱いているあなた様であれば守り神様を崩れた祠から救い出せると思ってお願いしております』
 
 ザラグがそういうと僕はまずは状況把握からと思い了承した。

「わかりました。僕でできるかわかりませんが、現場をみてみたいです」
『おいおい、いいのかよアリ坊。もし、どうにもできなかったらオレっち達殺されるかもしれないんだぜ?』
「彼らは怖そうな見た目をしているけど、話せるし理知的だよ。大丈夫、僕に任せて」

 胸元のリックにそうつたえると、ザラグの案内で守り神のいる祠へと向かうのだった。