■エグナシア島

「アリオス皇子殿下、ルシア王妃、下船を……」
 
 鎧を着た兵士が冷たい言葉を僕達に放つ。
 敬称はつけているものの、敬意というものは感じなかった。
 僕達に視線を合わせることない兵士に頭を下げた僕は母様と共に船を降りる。
 中央に大きな山があり、それを囲うように森が広がっている島だった。
 降り立った砂浜からすぐに潮風を浴びてボロボロになった掘っ立て小屋が見える。

「”病にあるルシア王妃を気遣い、自然豊かなこの地にて療養をすること。期間は無期限とする” 以上が皇帝陛下の命であります」

 書状を読み終えた兵士は書状を巻き上げて、母様に渡した。

「確かに拝命いたしました。陛下の愛に感謝いたしま……コホッ、コホッ……すみません」

 母様は弱弱しく礼をしようとするが、咳き込んでしまい礼ができない。
 その様子を冷たい目で見ていた兵士達は踵を返して船に戻っていった。
 船が島から離れ、見えなくなるまで僕と母様は頭を下げて見送る。

(無期限の療養なんて……追放じゃないか……醜聞を気にした父様の仕打ちにしても酷すぎる)

 こうした場合、辺境など陸続きの土地なのが一般的だと思うのだが、母様が病気であることを知った父様は治すことをせずに隔離代わりにと島流しを決めたのだ。
 冷酷で非道という言葉が似合うが、国民の前では優しく自愛に満ちた皇帝ということで通っている。
 
「コホッコホッ」
「母様、小屋でお休みしましょう。ここに立っていては体に障ります」
「ええ、そうね……ごめんなさい、アリオス。私が貴方に魔力があるように産んであげれなかったから……」
 
 できもしないことで謝罪する母様の姿を見るのは僕には辛すぎた。
 魔力がないのは僕が異世界転生者であることも理由としてあるのかもしれないのに……。
 つらそうにする母様を支えながら、僕はボロボロの小屋へいき、清潔という言葉を投げ捨てたようなベッドへ母様を寝かせる。

(この環境をまずどうにかしなくちゃ……)

 僕は思い立ち、食事も含めて探しに行くことを決めた。

「母様、食べるもの探してきますね」
「遠くに行ってはダメよ? コホッコホッ」

 咳き込む母様をそのままにしておくのは心が痛むが、今はそれよりも優先するべきことがある。
 僕は小屋を離れ森の中へ足を踏み入れるのだった。

◇ ◇ ◇

 無人島と言われていた通り、手入れのされていない森は5歳の子供の体では歩きづらい。
 服も貴族がきるキラキラした服なので、なおさらだ。

「異世界転生したのに、チートじゃないなんて間違っていないかなぁ……」

 僕は周囲に誰もいないことをいいことにぼやく。
 生まれて5年……腹は一緒だが、魔力の才能あふれる兄にいじめられてきた思い出しかない。
 兄より年上で、僕の姉替わりともいえる隣国のお姫様たるクラリスとのひと時だけが癒しだった。
 
「なぁ、君だってそう思うだろ?」

〈万能翻訳〉(ユニバーサルトランスファー)の条件達成を確認。発動いたします〕
 
『知るかよ、バーカ』

 リスに何となく声をかけてみたら、()()()()()
 謎の声が聞こえてきたとおもったら、返ってきたのである。
 僕は目を点にしてリスを眺めていた。

『んだよ、コッチみてんじゃねぇよ! やんのかオラ、あぁぁん!?』

 リスが僕にガン飛ばしながら、威嚇してくる。
 言葉遣いがチンピラなのは何故かはわからない。

「あー、僕は君と争うつもりはないんだ。僕の名前はアリオスというんだ。君の名前は?」
『アリ坊か、いい名前じゃねぇか。オレっちか? オレっちはリックだ。アニキと呼べよって……お前オレっちの言葉がわかるのか!?』
「うん、なんだかわかるようなんだよね……。この島のことを教えてほしいんだ、食べれる果物のある場所とかは特に」
『いいぜ、アリ坊。オレっちに任せな!』

 リスが僕の肩に乗り、一緒に森の中を歩くことにした。
 もしかして、これがチート能力???