私には「共感覚(きょうかんかく)」という、特性があるらしい。

その名前を知ったのは、もう随分前のこと。



私のは聞いた音に色が見える、「色聴(しきちょう)」というもので。

自分が他の子と違うと感じるのに、そう時間はかからなかった。



物心つく頃から、気がついたときには、もう私の聞こえるセカイは色に溢れていて。


みんな、同じだと思っていたのに。





「色が見える」って言った瞬間、みんなが私のことを「変な子」って言い始めたから。

「そんなのうそだ」「おかしい」って。そう言ったから。



別に、目が見えないわけじゃない。ちゃんと見えてる。色だって分かる。

ただそこに、音が、色になって、ステンドグラスみたいに重なるだけなのに。






____以来、私は。共感覚について、誰にも話すことはなかった。もちろん、家族にも。

お母さんには、もう知られているかもしれないけれど。



私を「変な子」にしてしまうそれは、私の「病気」になってしまった。





「学校、楽しい?」朝ご飯を食べる私に、若草色の声が聞く。


「うん」うなづくけど、そんなのは嘘。






私は、色聴(じぶん)が嫌いだ。

そのせいで、友達なんているはずもなく。

それは高校生になった今も、変わっていない。









「7時、7時____」



朝ご飯を食べて赤紫色が見えたら、もう出る時間だ。

今日の時間割を、つぶやきながら確認する。

教科書の朱色(しゅいろ)砂色(すないろ)緑黄色(りょくおうしょく)藍色(あいいろ)が鞄の中にそろっていることをさっと確認してから、家を出る。







「いってきまーす」




玄関を開け、パサッ、と傘を開く。

エメラルドグリーンが、にじんで消える。






____今日もまた、1日が始まる。