「……ごめん」


 三枝をあの輪の中から救い出したくて、だけど結局自分一人じゃ何もできなかった。やっと始まったホームルームの最中、小さな声で謝れば三枝は目をきょとんとさせる。

 思い上がってんなよ、俺。
 俺が口を挟まなくとも、三枝は一人であの場をやり過ごすことができたはずだ。なんか、独りよがりの偽善だったなと思ったら、無性に恥ずかしくなって視線を逸らした。

 ――くいっ。
 突然、右手の袖を引っ張られる。
 何だと思って見ると、不満そうにきゅと口を結んだ三枝がこちらをじとりと見ている。


 「ありがとうぐらい言わせてよ」
 「……」
 「嬉しかった」


 何も言えない俺に、そう笑いかける男のことをまだよく知らない。だけど、他人をよく気にかけていて、優しくて。顔が良いから人気というわけではないことは、出会ってすぐの俺でもよく分かった。

 三枝は、何でも一人でできるタイプの人間だ。
 友人とはまだ言えない、ただのクラスメイト。それなりに距離を保ちつつ、困っている時は寄り添える人になりたいと思った。

 ――……そう、思っていた時が俺にもありました。
 
 進級して、一週間が経った。
 木曜日の六限目、LHRの時間。


 「今日はこのクラスの委員と係を決めます」


 桃ちゃん先生がそう言うと、クラスは一斉に沸き立った。女子は仲の良い友だちと目配せし合って、男子は「お前、何する?」と声を張り上げる。

 俺は別に何でもいいなぁ。
 去年委員長をやったのだって、誰もやりたがらなくて全く決まらなかったからだ。流れに身をまかせようと静観していると、隣から視線が突き刺さる。


 「何やるか決めた?」
 「さぁ……何でもいいかな」
 「ふーん」


 自分から聞いてきたくせに、つまらない返事に興を削がれたのか、三枝は頬杖をついて前に向き直った。