「何でそんなつれないこと言うんだよ」
「いやだって、仲良いなら積もる話もあるかなと思って……」
「はぁ……、委員長って、いっつもそう!」
螺良は頬を膨らませて、不満そうな態度を隠そうとしない。どうしてこんな観衆の目の前で、俺は朝っぱらからダメ出しされているのだろう。
「俺なりに気を遣ったつもりだったんだけど……」
「そんなのいらないから。何で同じクラスなのに別々に行こうとするのか、理解に苦しむわ」
「螺良は同じだけど、その、」
美男子はまだクラスを確認してないだろう。
そう言いたいけれど、流石に本人を前にそんなあだ名で呼べるわけがなくて吃ってしまう。
すると、言いたいことは伝わったのか、居心地悪そうにしている美男子の背中をバシッと叩いた螺良がニカッと笑った。
「何だ、そんなことか。頼も同じクラスだから大丈夫! な、一緒に行けばいいだろ」
えー、気まずい。すごく気まずい。
……とか、そんな本音を言ってはいけないことぐらい、俺でも分かる。
リアクションに困っていると、ずっと黙ってやりとりを見守っていた美男子が口を開いた。
「なんかごめんね」
「いえ……」
「『はじめまして』なのに、気遣ってくれてありがとう」
やたらと「はじめまして」を強調された気がするけれど、これは果たしてただの気のせいだろうか。そう思うけれど、柔和な笑みを浮かべる彼につっこむ気力はなくて、再び「いえ……」と返すしかなかった。
「え、二人はじめましてなの?」
「うん、そうだよ」
「…………」
「マジ?」
そんな俺たちのやりとりを傍で見ていた螺良の不思議そうな声に肯定を返せば、疑いの目を向けられるのは美男子の方。
「だってお前、ずっと、」
「三枝頼。これから同じクラスだし、俺とも仲良くしてね」
何かを言いかけた螺良を遮るように、自己紹介を始める美男子、改め三枝。
名前を聞いて「ああ、そうか」と納得する。さっき、女子が大騒ぎしていたのは、こいつのクラス分けを確認していたからだろう。
今だって、ざわざわしている声と視線がうるさく感じるのに三枝だけは当たり前のようにしていて。こんなにも注目の的になっているところを見れば、納得する。俺の知らないだけで、どうやら三枝頼は学校一の人気者だったらしい。
「どうも、枢木一織です。まぁ、それなりによろしく」
「ふふ、それなりに、か……」
そんな三枝と連む未来が見えなくて、作り笑いでやんわりと遠回しに誤魔化せば、笑われてしまった。その顔が少し憂いを帯びていて、美男子はどんな表情をしても絵になるなぁと、そんな顔をさせた当事者なのに他人事のように考えていた。



