愛って、痛みだ。優しくて甘い痛みも、もがき苦しむ痛みも、全部ぜんぶ与えてくれる。それが三枝から与えられる痛みなら、どんなものでも愛おしくて大切だ。

 頬に添えていた手に三枝の手が重なった。そっと頬から離して、手のひらを向かい合わせる。そのままきゅと握り締めれば、三枝も同じようにおずおずと指を絡めた。


 「……くるちゃん、」
 「ん?」
 「俺と、付き合ってくれる?」
 「うん、よろしくお願いします」


 晴れやかな笑顔を浮かべてぺこりと頭を下げれば、手を引かれてぎゅうっと抱き締められる。


 「都合のいい夢を見てるみたい……」
 「俺も」


 ぽつりと呟く三枝の言葉に同意する。こんな風に触れられる日が来るとは思ってもいなかった。学校一の人気者が俺を好きだなんて、奇跡が起きたとしか思えない。


 「なぁ、三枝」
 「ん?」
 「いつもまっすぐ帰ってたけど……、今日は少し、遠回りして帰ろう」
 「今日だけとは言わず、毎日遠回りしようよ」
 「ふは、それもいいな」


 本当はずっと、遠回りして帰りたかったんだ。図書室での勉強だけじゃない、もっといろんな時間を一緒に過ごしてみたかった。でも、みんなの三枝を俺ばかりが独占するわけにはいかないから、我慢してた。だけどこれからはもっと、自分の気持ちに素直になってみてもいいのかもしれない。三枝ならきっと、何だって一緒に叶えてくれるはずだから。


 「あー、でも、みんなの三枝を独り占めしたら絶対文句言われるよなぁ」
 「してよ、独り占め。俺がいいって言ってるんだから、外野なんて関係ない」


 俺のぼやきを聞いた三枝が、むっとして唇を尖らせる。


 「本当に三枝を独り占めしていいの?」
 「うん、出会った時からずっと、骨の髄まで俺はくるちゃんのものだから」


 晴れ晴れとした笑顔を向けられて、胸が高鳴った。


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 嗚呼、どうしようもないなと漠然と思う。
 嬉しい気持ちも、切ない感情も、全部ぜんぶお前が与えてくれる大切なもの。

 これはきっと、どうしようもない愛なのだ。
 


 【完】