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 「すごーい! 委員長かわいい!」
 「ベリーショートの女の子ですって言われたら、信じちゃうレベルだよ」
 「ほら、表情管理しっかりして。委員長ならナンバーワンメイドになれるから!」


 気が乗らないまま、なぜかぴったりサイズのメイド服に着替え、光好さんのされるがままメイクを終えた俺を女子たちが取り囲む。よっぽどげんなりした表情をしていたのだろう、「笑って」とみんなに言われて口角を上げようとするけれど、顔がぴくぴくと引き攣ってしかたない。このメイド服に生気を吸い取られてる気がしてならない。ナンバーワンメイドとか、絶対になりたくないんだけど。


 「まぁまぁまぁ……!」
 「紅野さん……」
 「最高の出来です、委員長! 私の目に狂いはなかった!」


 すると、俺を辱めている張本人がタイミングよくキッチンに戻ってくる。俺の姿を一目見た瞬間、ぱあっと顔を輝かせ、その頬は興奮で紅潮している。

 短いスカートの裾をぎゅっと握り締め、唇をきゅと噛み締めていれば、紅野さんに「さぁさぁ」と背中を押される。え、本当にこの格好で人前に出るの? 未だに受け入れられてなくて、最後の悪足掻きでブンブンと首を横に振って、その場に踏み留まろうとする。しかし、そんな俺の行動はお構いなしに、その細腕のどこにそんな力があるんだというほどぐいぐいと押されてしまい、あっという間に俺はキッチンを出て、ホールに立っていた。


 「えー、かわいい!」
 「新しいメイドさんだ!」


 席が近かった他校の女子高生二人組がすぐに気づいて声を上げる。羞恥心が上限突破して、ぷすぷすと火が出ているんじゃないかってぐらい顔が熱い。今すぐにでもキッチンに戻りたい。


 「メイドさんもチェキ撮れるんですか?」
 「え、いや、俺は、」
 「もちろんです! 何枚ご希望ですか?」


 断ろうとした瞬間、金の匂いを嗅ぎつけた墨田がさっと登場し、俺の代わりに交渉を始める。敏腕マネージャーも驚きの早さに若干女子高生も引き気味だ。

 チェキコーナーは三枝の待機列ですごいことになっているからと、あれよあれよという間に勝手に話が進んでその場でポーズを取らされる。


 「はい、チーズ!」


 一緒にハートを作ってほしいと言われて、渋々手を差し出せばそれだけできゃっきゃっと喜ばれる。こっちは死んだ目で無理やりな笑顔だっていうのに、随分と楽しそうだ。


 「わー! ありがとうございます!」
 「みんなに自慢しちゃお」
 「かわいい男の子とチェキ撮れるなんて知らなかったから、めっちゃラッキーだったね」


 そして制限時間が迫っていたのか、チェキを確認した二人はるんるんと足取り軽く教室を出て行った。取り残されて、はぁ……と深く息を吐いていると、ぽんと肩に手が乗る。


 「委員長、荒稼ぎするぞ」
 「最低だよ、お前」


 グッと親指を立てて、にかっと笑う墨田の腹を肘で押して体を離す。そのまま隅の方に移動しようと歩き出せば、「不機嫌なメイドも案外需要あるぞ」と後ろから声が飛んできた。馬鹿みたいにとことん下衆な奴だと呆れてしまう。