放課後、内装作りで出たゴミを一度捨ててこようと、両手にゴミ袋を提げて教室を離れた。渡り廊下に出たところで後ろから足音が近づいてきて、そのままさっと右手のゴミ袋を取られる。その動作があまりにスムーズで、抵抗する暇さえなかった。思わず、戸惑いながら足を止めてしまう。


 「……手伝う」
 「…………ありがと」


 そう一言だけぼそりと呟いた三枝は、きゅと唇を結んで意思の強い瞳で俺を見ていた。今更二人きりになれるはずがなくて本当は断りたかったけど、その瞳で見つめられれば頷くしかない。

 肩を並べた俺たちは、一人で歩いていたときよりも随分と遅いスピードで再び歩き始める。少しでも長くこの時間が続けばいいなと、狡い俺だけがそんなことを考えていた。

 グラウンドの方から、運動部の声が聞こえてくる。何を話せばいいのか分からなくて、俺たちの間に会話はない。切なくて、苦しい。手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、三枝を随分と遠く感じた。

 もう、あの夏には戻れない。そう実感してしまう。

 校内にゴミ捨て場があるのだから、所詮ゴミ捨てなんて数分で終わる。手に持っていた重みが消えて解放されたはずなのに、胃の中にずしんと重たいものが残ったまま。どうすることもできないそれを抱えたまま教室に戻ろうとしたときだった。


 「ねぇ、くるちゃん」
 「……なに?」


 三枝が俺を呼び止める。
 ゆっくりと振り返れば、迷子のような表情をした三枝が下を向いていた。言うか言わないか、悩んでいるのが伝わってくる。


 「俺のこと、……ううん、ごめん。やっぱりなんでもない」


 西日が眩しい。三枝の目元がキラリと光った気がして、一瞬泣いているのかと錯覚した。


 「……戻るぞ」
 「待って、」


 このまま二人でいたら、また絆されてしまう。早く教室に帰ろうと一歩踏み出したところで、腕を掴まれた。触れられたところにぶわりと熱が集中する。


 「……くるちゃんの時間がほしい」
 「え?」
 「文化祭の日、一日だけでいいから俺にくれないかな」


 都合のいい夢か幻聴かと思ったけれど、縋るような目でそう訴えかける三枝は現実で、言葉の意味をうまく飲み込めない。理解はしたって、納得はできていないのだ。

 こんな俺が今更何を返せばいいのか。自分の気持ちに従って「はい」と答えてしまいたいのに躊躇ってしまう。黙り込んでいると、ぎゅと掴まれたままの腕に力が入った。


 「何で俺? 三枝と一緒に回りたいっていう女子、いっぱいいるよ」


 へらりと笑って、本心を隠す。冗談でしょと、真剣に取り合わないようにすれば、三枝の綺麗な顔が歪んだ。